この点では私も一般の科学者になり、例えばこのブログで紹介したゲノムの構造化の話も、Hi-Cのような方法から計算される極めて抽象的な結果に基づいて話をし、また十分納得してしまっている。しかし、生粋の形態学者にとっては見えない限りそう簡単に信じられないようだ。
今日紹介する米国・ソーク研究所からの論文はDNAが巻きついているヒストン複合体の一個一個を全て可視化して染色体の構造を見るための方法の開発研究で7月28日号のScienceに掲載された。タイトルは「ChromEMT: Visualizing 3D chromatin structure and compaction in interphase and mitotic cells(ChromET:間期と分裂期の細胞の3D構造とコンパクションを可視化する)」だ。
クロマチンを可視化したいならヒストンを染めればいいのではと思ってしまうが、この場合分子量の大きな抗体を使うことになり、ヒストン複合体そのものを可視化する目的には合わない。
この研究では、様々な蛍光化合物の中からDNAに結合し蛍光を発するとともに光に反応して活性酸素を生産し、その結果酵素染色に用いられる基質DABの沈殿を周りに合成する化合物DRAQ5を特定している。DABの沈殿はDNAが巻きついているヒストン複合体にも及ぶため、これをオスミウムで染色することで、電子顕微鏡で高解像度でヌクレオソームが可視化できるという原理だ。
DRAQ5の開発がこの研究の全てと言っていいだろう。あとは、様々な細胞を用いてヌクレオソームがどう見えるのか、電子の照射軸を8段階に変化させるトモグラフィー電子顕微鏡を用いて3D画像を合成し、詳しく検討している。ただ、形態学の素養のない私にとっては、TADのような抽象的指標と対応させないとなかなか理解し難い点が多かった。
それでも、一つのヌクレオソームの大きさが5nm-24nmまで結構多様なサイズであるのは面白い。すなわち巻き付き方が一様でないのだろう。また、タイトなクロマチン構造を持つ場所はたしかにヌクレオソームの密度が高く、小さなヌクレオソームが増えていることも示されている。
他にも、分裂期では染色体全体がDNAとは無関係の足場を使って構造化されており、微小管との関係も可視化できる点など、私でも理解できた。
いずれにせよ、次は形態学と抽象的な学問との連携が目指されるだろう。月田さんのように両方兼ね備えた研究者もいるが、やはり両方がもっと交流を深めて、ゲノムの構造化の原理を解明して欲しいと思う。
大学院生として研究を開始した1970年代当時にヌクレオソームは私の関心事でありました。当時、海外からも核内の遺伝子の形態が研究対象として活発な報告があったように思います。当時の疑問は、DNA複製や転写の時に、結構巨大分子であるDNA/RNAポリメラーゼは如何にしてヌクレオソーム構造を乗り越えるのか疑問を持っていましたが、いまだにわかりません。活性遺伝子上のヌクレオソーム構造が解明されればわかってくるのでしょうか?今後の解明が楽しみです。先生の解説にはいつもなるほどと納得させられています。先生の面白い論文ピックアップにも期待しています。
励ましてもらえると、頑張ろうという気になります。