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8月7日:ミノアとミケーネ文明を支えた人たち(Natureオンライン版掲載論文)

2017年8月7日
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70歳近くになるとずいぶんたくさんのオペラを鑑賞することができたが、オペラを鑑賞するだけでヨーロッパ文化にいかにギリシャ文化が深く根を下ろしているか分かる。バロックオペラにギリシャの題材が多いのはわかるが、多くの題材があると思える19世紀以降でも例えばリヒャルト・シュトラウスの「エレクトラ」「ダナエ」、あるいはベルリオーズの「トロヤの人々」など多くがギリシャを題材にしており、ストーリーについての素養のない私たちの鑑賞を阻む要因になっている。

さてこのギリシャ文明は、青銅器時代に栄えたクレタ島を中心とするミノア文明と、ギリシャ本土を中心とするミケーネ文明に由来すると言っていいだろう。両方共線文字を使いまた、ギリシャ神話のミノス王はミケーネ文化に由来するし、トロイの木馬のトロイや「エレクトラ」に出てくるアガムメノンが支配したミケーネはホメロスの叙事詩に書かれており、ホメロスの叙事詩を事実に基づくと確信したシュリーマンにより発見された。

線文字の使用などほぼ親戚とも言える2つの文明は、そのルーツとなるとまだよくわかっていない。今日紹介する米国ハーバード大学、ワシントン大学、そしてドイツ・ライプチヒのマックスプランク研究所からの共同論文は、このミノア、ミケーネの青銅時代の遺跡に残された人骨のゲノムを解析し、両者の関係、ルーツ、そして現代ギリシャ人との関係を調べた研究だ。

論文を読むと、すでにヨーロッパとその周辺で出土した様々な時代のゲノム解析が急速に進んでいることがよくわかる。これらの蓄積があって初めてこの研究も成立している。この周辺の民族と比べると、ミノア人とミケーネ人は極めてよく似ており、トルコ地方のアナトリア人を含め同じルーツのエーゲ・アナトリア青銅器文明とひとくくりにできる。

とはいえ、両者のゲノムは分離可能でもある。ミノア人は石器時代のアナトリア人に中東の民族が交雑して形成されている。一方、ミケーネの方は同じ土台に東欧やシベリアなど北方の民族との交流により形成されている。現代ギリシャ人は当然だが、ミケーネ人に近いが、さらに他の民族が交雑して形成されている。

もちろん、これはゲノム上の交雑の話で、実際にどのように交雑が進んだのかは今回の解析からは明らかになっていない。おそらくミノア、ミケーネ相互の交雑もあり、他の民族との持続的交流もある。稀にしか交流がなかったネアンデルタールと現代人のような単純な図式で決めることはできない。一つの文化が多様化したのか、あるいは多様な文化が合わさって共通文化ができたのかについてすら、まだまだ研究が必要だろう。その意味で、ゲノムと遺物解析を基盤とした全く新しい考古学が生まれるように思う。

文化的に重要なのは、今回解析されたミケーネ王族のゲノムは他のゲノムとほとんど同じで、国家の階層が同じ民族から形成されていたこともわかる。

考え出すと収拾がつかないのでここでやめるが、おそらく西欧思想のルーツとなる初期ギリシャの思想的多様性のルーツも、なんとなく理解できる日が来そうに思える。

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