これまでの研究で、NASHの原因の一つとして飽和脂肪酸蓄積による肝細胞死があると考えられ、この過程に関わるセリン/スレオニンリン酸化酵素mixed lineage kinase type 3(MLK3)ノックアウトマウスでは、NASHの進行を止めることがわかっていた。
今日紹介するメイヨークリニックからの論文は、MLK3阻害剤を開発してNASHの進行を止められないか調べた研究で8月3日号のJCI Insightに掲載されている。タイトルは「Mixed lineage kinase 3 pharmacoogical inhibition attenuates murine nonalcoholic steatohepatitis(MLK3を薬理的に阻害することでマウスの非アルコール性肝炎を抑えることができる)」だ。
このグループはNASHで肝細胞死が始まると炎症が起こり、この結果ケモカインの一つCXCL10が分泌されマクロファージを肝臓に集め、肝硬変へのサイクルが促進すると考えている。
研究ではMLK3阻害剤として選んだ経口投与可能なURMC099を、マウスに脂肪を投与してNASHを誘導する段階から与え、NASH抑制効果を調べている。結果をまとめると、
1) URMC099は脂肪代謝自身には影響がなく、また脂肪肝の発生にも影響がない。
2) URMC099は肝臓でMLK3とその下流の反応を抑制する。
3) URMC099はマクロファージの浸潤を中心に、炎症の発症を強く抑える。
4) その結果肝臓の線維化(肝硬変)も抑える。
5) URMC099はマクロファージ活性化を抑炎症誘導物質を抑えるとともに、肝細胞からのCXCL10ケモカインの分泌を抑える。
以上の結果をまとめると、URMC099は肝細胞死を防ぐとともに、CXCL10分泌を阻害しマクロファージの浸潤を止める。さらにマクロファージの活性化を止めて、炎症物質の分泌を阻害し、炎症を止める、といういいことずくめの結果だ。
メカニズムから考えると、発症後のNASHにも効く様に思えるが、今回の実験からは明らかでない。また、半年という長期投与を行って問題のないことを示しているが、これほど多様な作用を持つキナーゼの阻害に副作用がないとは思えない。今後より臨床に近い状態で調べることが重要だろう。
しかしNASHに対する特異的治療法がないところで、肝細胞死から肝炎への過程についてのある程度信頼できるモデルができたのは大きい。今後ケモカイン阻害も含め、新たな治療可能性が生まれることを期待させる。
抗炎症薬、TGF-beta阻害剤などとのコンボが奏功するかもしれません。期待したいです。