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8月12日:プロモーターと転写の方向性(8月24日号Cell掲載予定論文)

2017年8月12日
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一つの遺伝子ユニットを描くとき、転写開始複合体とRNA ポリメラーゼが結合するプロモーター領域から一方向に転写が進むように描くのが普通だが、この方向性はどう決まっているのか、私自身考えたことはなかった。しかし言われてみると、同じゲノム上にコーディング領域がどちらを向いて並んでいるかはまちまちだし、ノンコーディングRNAでは両方に転写が起こる場合もあるので、重要な問題であることに気づく。

今日紹介するハーバード大学からの論文はプロモーターからなぜ一方向にだけ転写が起こるのかという基本的な問題を問うた研究でCellの8月24日号に掲載予定だ。タイトルは「The ground state and evolution of promoter region directionality(プロモーター領域の方向性の基底状態と進化)」だ。

しかしこのように重要だがマニアックな研究ですらハーバード大学から出てくるのには驚くが、この研究では教科書を鵜呑みにして当たり前と考えてしまう問題に着目した。と言っても、プロモーターの方向性が決まっているからこそ普通に転写の実験ができている。方向性を持たないのではと着想したとしても、方向性がないという状況をまず示す必要がある。

この研究では様々な種類の酵母を使い、それぞれの種で方向性を持って転写されているプロモーターが、他の種類の酵母の中では方向性を失うことを発見し、転写の方向性が決して一義的に決まっていないことを明らかにした。

RNAポリメラーゼ結合サイトから転写されたばかりのRNAを正確に解析できるNET-seqという方法を開発して一種類の酵母の中で働いているプロモーターの方向性を調べると、ほとんどははっきりと方向性があるが、一部のプロモーターでは両方に転写が進んでいることも明らかになった。

次に大きな染色体領域を導入するYACベクターをD.hanseiiという酵母から作り、これをS.cervisiaeに導入したとき、普通なら転写が起こらない領域から転写が始まる「偶発的プロモーター」を43種類YAC上に特定し、そこからの転写の方向性を調べると、やはり方向性が失われていることを明らかにした。

この結果は、プロモーター領域には本来方向性がなく、転写開始に必要な分子を集めるだけの役割を演じているが、進化とともに転写因子の結合の非対称性が生まれ、これが方向性を決めていることになる。実際、D.hanseiのYAC上に見つかる「偶発プロモーター」は、K.lactisのYACには存在せず、この差は転写因子結合部位とプロモーターの関係により決まることを明らかにし、新しくできたプロモーターに転写因子の結合部位が加わることで方向性が生まれるのがプロモーターの進化であることを示唆している。

最後にこの可能性を確かめるため、酵母ゲノム中で現在も方向性が明確でないプロモーターが、進化的に比較的新しく生まれていること、また方向性がしっかりしているプロモーターでは、他の転写因子の結合部位の位置が保存されていること、最後に人間の肝臓だけで働き、他の哺乳動物では働いていないプロモーターでも転写の方向性がはっきりしないことを示している。

結論としては「プロモーター領域自体に方向性はなく、進化で転写因子結合サイトが周りに集まることで方向性が出る」とまとめられる。また新しいことをひとつ勉強した気になる論文だった。

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