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8月15日:CRISPR/Casを使ってアリの社会行動を変化させる(8月10日号Cell掲載論文)

2017年8月15日
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CRISPRを使ったヒト胚遺伝子改変論文が発表され、我が国で議論が行われているようだ。個人的な意見だが、クローン個体作成問題と同じで、実際に実施に必要な施設、人材などの問題を考えれば、実際の応用に関しては現実的に抑止が効いており、あらゆる実験の記録と開示を条件にしておけば、CRISPR使用に制限をかけなくとも問題はないと思う。どの国にも犯罪者はいるが、それを除くと我が国は十分成熟している。「そもそも」などと自分の意見をかざして議論してもほとんど結論は出ない。

それより重大なのは、我が国で倫理問題ばかりの議論が盛んで、この技術を自由な発想で使いトップジャーナルに掲載されるような研究が今も皆無である点で、議論に参加している専門家と称する人も、この技術の本当の深さやポテンシャルの生の声を聞くことができず、表面的な議論に終わってしまうのだろう。

今日紹介するニューヨーク大学からの論文はCRISPRでハリアリの遺伝子を改変し、社会行動の変化を調べた論文で8月10日号のCellに掲載された。タイトルは「An engineered orco mutation produces aberrant sociall behaviour and defective neural development in ants(Orc遺伝子の人為的変異誘導によりアリの社会行動と神経発生の異常が誘導される)」だ。

ほぼ同じ内容の論文が同じ号にもう一編掲載されていることは、CRISPRを利用するために長い時間をかけた準備が必要な研究を、ほとんど同じ系進めてきたラボが少なくとも2つはあるということだ。このようにCRISPRの可能性は野生生物の遺伝子改変が可能になったことで、この方向の仕事は爆発的に拡大するだろう。
それでもアリの遺伝子改変は簡単ではない。というのも一匹の女王アリだけが生殖可能な点で、実験室で操作するハードルになっている。今回研究に使われたハリアリは、この問題が自然に解決されている種類で、女王アリから離すとどの働きアリも女王アリに変身し卵を生むことができる点だ。この特徴を使って、簡単に採取できる働きアリを女王アリに変身させ、オスアリと掛け合わせて得られた卵にCRISPR/Casを導入、核だけが分裂する合胞体時期にそれぞれの核で遺伝子編集が進み、生まれたアリが改変細胞と、非改変細胞のキメラになるという系を使っている。

キメラでも、一部の個体は生殖細胞が置き換わっているので、あとはハプロイドのオスで変異体を分離して、交配を繰り返して突然変異態を分離している。

標的に選んだのは、女王からのフェロモンを感じるための嗅覚受容体と結合して機能を助けるOrc遺伝子で、これをノックアウトするとチャンネル型の嗅覚受容体を介する嗅覚が欠損する。

おそらく条件を設定するのには時間がかかったのだと思うが、鼻のきかない働きアリから以下のようなことが明らかになっている。
1) 群れから離れる時間が長くなるが、狩りの能力は嗅覚がないため全くない。
2) 他のアリとの交流がなくなる。
3) 普通は抑えられている女王になるための触覚の動きを示す。
4) しかし、他のアリがいる巣の中で女王になるための競争には参加できない。
5) 女王になってもオスを無視して自然に生殖ができない。
など、様々な発見が行われている。
これに対応して、嗅覚と行動をつなぐ中枢領域の大きさが低下しているが完全になくなっていないことなど、解剖学的変化も明確になっている。

はっきり言って、他の動物のノックアウトと同じで、形質は面白いが、これを完全に理解するためには解析にまだまだ時間がかかるという印象だ。しかし、このような遺伝子ノックアウトを野生生物に広げることが可能であることが示され、実際そうなっていくだろう。

最後に、野生生物の遺伝子改変の条件として、研究室内への封じ込めの問題は大至急指針を作る必要がある。特に、野外の行動の観察が必要な場合の封じ込めをどうするのか、私は受精卵問題より先だと思う。

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