CRISPR/Casシステムの最も重要な点は、DNAでもRNAでも特定の塩基配列に活性を持った分子をリクルートできる点だ。従って、ノックアウトやノックインといった遺伝子編集への利用はほんの入り口で、このことを理解できないと、胚操作の議論もCRISPRのポテンシャルのほんの上澄みだけの寂しい議論に陥ってしまう。
今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、このシステムを使って生きた細胞で特定のRNAを可視化するということと、特定のRNAを分解するという機能を組み合わせ、トリプレットリピート病のような短い核酸配列の繰り返すRNAを発現する病気を治療する可能性を追求した論文で8月24日発行予定のCellに掲載された。タイトルは「Elimination of toxic microsatellite repeat expansion RNA by RNA-targeting Cas9(RNAを標的とするCas9を用いてミクロサテライトの繰り返し配列が増加する病気を治す)」だ。
3−6塩基の配列が繰り返すリピート病は、様々な病気の原因であることがわかっている。ハンチントン病のように特定の遺伝子のCAG配列が増大して、その結果翻訳されるポリグルタミンが細胞内に蓄積して細胞死を誘導するものと、翻訳とは無関係にリピートを持った長いRNAがスプライシングを阻害することで遺伝子発現の大きな異常が引き起こされるケースがあるが、いずれもリピートを持つRNAが原因で、これを壊せば病気は食い止められる。
このグループはRNA を標的としたCRISPRの開発をずっと行ってきており、今回は核酸分解能を失わせたCas9に蛍光マーカーを結合させた分子を用いて、塩基リピートを持つ長いRNAが核内に粒子状に蓄積されることを可視化できることを示している。すなわち、これが細胞内にリピートを持つ RNAの存在を示す診断になる。
次にCas9にRNA分解酵素を結合させて利用すると、リピートを持つRNAを特異的にほぼ完全に壊せることを示している。
このように、診断と治療が組み込まれたシステムを用いて、異常RNAの集合やポリグルタミンの産生が抑えられることを示した後、筋ジストロフィーをモデルにこの治療法を用いることで、リピートを持つRNAが壊され、スプライシングが正常化し、筋細胞が正常化することを示している。
さらに、将来の遺伝子編集治療に向けて、アデノ随伴ウイルスにこのシステムを組み込めることも示している。
現在リピート病についてはアンチセンスなど、様々なトライアルが進んでいるので、この方法の応用も近いのではと期待する。