今日紹介するソルボンヌ大学からの論文は、ブランドではないが値段を聞くことでワインの評価が変わる脳の回路について研究した論文でScientific Reportsに掲載された。タイトルは「How context alters value: The brain’s valuation and affective regulation system link price cues to experienced taste pleasantnesss(コンテクストによる価値がどう影響されるか:脳の価値判断システムは値段と満足を結びつける)」だ。
ソルボンヌ大学の研究だが、対象はドイツ人で、値段は同じ12ユーロの3種類のワインを、値段が3、6、18ユーロの別のワインだと偽って、テースティングさせ、満足度の点数をつけさせる。値段を教えてから味を楽しむまでの30秒間を機能的MRIで値段を聞いたことによる脳の活動、テースティングによる判断時の活動を記録し、値段を知ることでテースティング結果が変化する過程と相関する脳領域を特定している。最後に、同じワインを今度は全くブラインドでテースティングさせ、満足度をつけてもらい、値段を聞いた影響を算定している。
結構複雑な論文なので結論だけを列挙すると以下のようになる。
1) まず値段を知ることは確実にワインの満足度に影響する。特に、安い値段を聞いてしまうと、満足度の低下が激しい。
2) 一般的に物の値段に反応する前頭前皮質の領域があり、脳の価値判断システムBVSと名付けられているが、価格を知る影響はこの領域を介してテースティングに関わる領域をリンクされる。
3) BVSの活動は個人的に大きな差があり、実際に値段を気にする人ほど、満足度への影響が強い。
4) BVSには前頭前皮質の幾つかの領域が関わっているが、この研究では最初の値段を聞いたことによる活動は前頭全皮質で見られ、後方側方前頭前皮質は全ての過程で興奮が続く。したがって、前方の皮質で価格の情報がテースティングの早い段階で様々な統合を行う後方の皮質に影響し、最終的なテースティングと判断につながる。
考えてみれば当たり前の結果で、これを真に受ければ安いワインもいい値段で売れば満足してもらえるという結論になる。
私の印象では、この研究グループは本当のワイン好きではなさそうだ。私ならまずワインを飲ませた後、違う値段を告げて満足度を調べる方が面白いと思う。ブランドのない、安いワインに美味しいワインを探すことこそ、ワイン好きの真骨頂だ。