それなら、神経組織が変性するアルツハイマー病の進行も眼底検査で診断できそうなものだが、あまり論文を見かけることはなかった(眼科の専門誌はフォローしていない)。
今日紹介する米国ロサンゼルスにあるCedars-Sinai医療センターからの論文は、眼底検査でアルツハイマー病が診断できる可能性を示した研究で8月17日JCI Insightに発表されている。タイトルは「Retinal amyloid pathology and proof-of-concept imaging trial in Alzheimer’s disease (アルツハイマー病の網膜のアミロイド病変と診断への利用可能性を調べる画像治験)」だ。
アルツハイマー病で最も重要な所見はAβアミロイドの神経組織での沈着だが、網膜組織でこの沈着を検出することが難しかったのか、網膜でのAβ沈着の報告は少なかった。この研究では、検出が難しい原因が、沈着が不均等に分布しており、これまでのように網膜切片を用いる方法では見落としが多いと考えた。そこで網膜全体を染め、全網膜組織をスキャンする方法を用いてアルツハイマー病で死亡した患者さんの網膜を調べ、ほぼ脳組織と並行してAβの沈着が見られ、形態学的にもアミロイドの異常沈着と診断できることを明らかにしている。
この方法でAβ沈着の分布を見ると、予想通り均一ではなく、上部の辺縁に最も強く分布していることがわかった。このように、確かにAβが沈着し、その場所も明らかになると、当然眼底検査で検出できる可能性が出てくる。この研究では、クルクミン、すなわちウコンに含まれる黄色のポリフェノールがAβに結合するという性質を利用してAβ沈着を観察できる方法を模索している。
実際には普通の薬局で売っているウコンを飲めばいいというわけではなく、Longvidaという会社から提供される特殊なクルクミンを経口で2日間服用してAβを染め、それを網膜レーザースキャンで検出するプロトコルを開発し、10人の様々なステージのアルツハイマー病患者さんを調べている。
結果はアルツハイマー病の進行度とクルクミンで染まるスポットの数がほぼ正比例し、十分診断に使える可能性が示せたと結論している。もちろん、加齢黄斑変性症など、同じようにクルクミンスポットが検出される疾患もあり、もう少し大規模な調査で、正確な診断法として確立するには時間がかかるだろう。
しかし、この方法がAβを検出できることは確かで、現在行われているAβに対する抗体治療や、あるいはAβの生産そのものを抑えるBACE阻害剤の効果を見るためのマーカーとしては大きく貢献する可能性がある。もともとウコンは普通に飲まれていることから、Aβ除去を目指したアルツハイマー病の治験では積極的に活用を図ることは重要だと思う。