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9月6日:アフリカ原住民腸内細菌叢の季節変化(8月25日号発行Science掲載論文)

2017年9月6日
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「腸内細菌叢を調べようと計画しているのですがどうでしょうか?」と仕事で聞かれることが最近多くなった。確かに腸内細菌叢は様々な介入が可能なもう一人の自分と言えるため、人間の一つの性質として調べるに越したことはない。ただ、16Sリボゾームのユニット配列を用いたメタ解析で平均値をはじき出したところで、細菌叢の構成は複雑で、その意味を知ることは難しい。結局、細菌叢を調べたことをうまく宣伝に使ってマーケティングするのが関の山ということになる。実際、2014年に紹介した一年365日毎日細菌叢を調べた論文では、旅行に行くと構成は大きく変わるし、平静な生活を送れば変化は少ない。また個々の細菌を追いかければ、1日単位で消長がみられる(http://aasj.jp/wp-admin/post.php?post=1944&action=edit)。結局、細菌叢全体を追いかけた論文は、例えば無菌マウスに各細菌を再構成するような地道な研究と比べると、解釈が難しい。

とはいえ、生活スタイルで細菌叢の構成が大きく変わることは確かなので、これまで生活スタイルが先進国とは大きくかけ離れた民族の研究から何かヒントが得られないか調査が行われている。今日紹介するスタンフォード大学からの研究もそんな一つで、農耕に携わらず、古代の生活を続けているハッツア族の便を集め、季節変化を調べている。タイトルは「Seasonal cycling in the gut microbiome of the Hadza hunter-gatherers of Tanzania(タンザニアの狩猟採集民ハッツァ族の腸内細菌叢の季節変化)」だ。

腸内細菌叢の研究を読むときの最大の問題は、生データまでさかのぼることはないので、結局著者らの結論に誘導されてしまうことだ。私も例外でないので、前もって断っておく。

伝統的生活を続けるハッツァ族はもう200人に減っているようだが、乾季には主に狩りで得た動物中心、雨季には蜂蜜や木の実を中心の食生活を送っている。この研究では27人のハッツァ人から季節ごとに350の便サンプルを集め、そのまま液体窒素に入れて研究室へ持ち帰り、リボゾームの標準配列を用いたメタアナリシス、場合により全ゲノムのショットガン解析を行っている。

結果は期待通りで、腸内細菌叢は季節ごとに大きく変化する。面白いのは肉食が中心になる乾季には、現代人に近づく。全ゲノム解析で細菌叢の代謝経路を再構築して調べると、不思議なことに動物タンパク質を食べる乾季には食物繊維を処理する細菌叢の機能も同時に高まる。一方、現代人で高い肉食に関わるムチンなどの代謝経路は、雨季、乾季を問わず低いままで、肉食と言ってもハッツァの場合基本は食物繊維が中心であることがよくわかる。雨季ではあらゆる細菌叢の機能が低下しているのも面白い。乾季はよく食べるが、雨季には食が細るという印象を持った。

最後に、どの細菌叢の変化が多いかについて検討し、変化のほとんどは都会人にはほとんど存在しない細菌が季節変化の主役になっていることを示している。

結論としては、食生活が細菌叢を変化させる原動力であるという当たり前の結論になる。また研究自体は現象論で終わっている。

そろそろ、トップジャーナルもハードルをあげて、現象論だけでなく、なぜ特定の細菌が現代人では消えてしまったのか、さらに古代型の細菌叢は健康にいいのか悪いのか、など因果性の問題に突っ込んだ論文でないと採択しないようにするのがいいように思う。

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