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9月8日:ジカウイルスも使いよう(Journal of Experimental Medicineオンライン版掲載論文)

2017年9月8日
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1年前大騒ぎになったジカウイルス流行はほぼ制圧できたようだが、この時の集中的な研究の結果、ジカウイルスは最も研究の進んだウイルスの一つになった。このおかげで、試験管内の感染実験方法、感染実験が可能なマウスモデル、などが急速に整備された。このウイルスは増殖の盛んなラジアルグリア細胞を主な標的にしており、その結果胎児発生に大きな影響を持つ一方、大人の脳には影響が軽微で止まっていることも明らかになった。

この研究成果をうまく利用してジカウイルスを役に立つウイルスに変える可能性を追求したのが今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文でJournal of Experimental Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Zika virus has oncolytic activity against glioblastoma stem cells (ジカウイルスはグリオブラストーマ幹細胞を溶解させる)」だ。

この研究ではジカウイルスが増殖している神経幹細胞に選択的に感染し殺すなら、増殖力の強い神経細胞の典型であるグリオブラストーマの幹細胞も特異的に融解できるのではないかと着想、まず試験管内で増殖するグリオブラストーマ細胞株にジカウイルスを感染させている。結果は期待通りで、幹細胞だけを溶解し、分化した細胞にはほとんど影響がない。

次に細胞株ではなく、摘出したガンを培養したオルガノイドや、摘出組織のスライスにウイルスを感染させ、幹細胞の増殖を抑えられることを示している。

次にガン治療に使えるか調べる目的でマウスにも感染するよう順応させたウイルスを用いてグリオブラストーマを移植されたマウスにウイルスを注射、ガンの進展と生存を調べると、ウイルスの感染量に応じて強いガンの抑制効果があることを示している。

最後に、今後様々な変異を導入してウイルスをより治療に適したものに作り変える可能性を考え、インターフェロン感受性を落としたウイルス株を作成し、変異株でも同じようにガン幹細胞を融解させる効果があること、また抗がん剤との併用でさらに効果が高まることなどを示している。

グリオブラストーマは今も治療が難しいガンの一つで、効果があるならなんでも試したい気持ちになる。ただ、ウイルスを用いる治療法は、人工改変したウイルスが流行して新しい問題を引き起こすのではという公衆衛生学的な懸念を払拭する必要がある。したがって、かなり有望には思えるが、臨床応用までには多くのハードルが待ち受けているように思う。

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