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9月9日:子宮頸がんとパピローマウイルス(9月7日号Cell及びThe Lancet オンライン版掲載論文)

2017年9月9日
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子宮頸がんがパピローマウイルス(HPV)の感染なしに発症する可能性は理論的には存在しても、実際にはほぼすべての子宮頸がんでHPVの感染が見つかる。これは、HPVがコードしているタンパク質に、私たちが持っているガンを抑制する仕組みを無効にする働きがあるからだ。すなわち感染した細胞はガンへのスイッチが入りやすくなる。

とはいえ、感染したからといってほとんどはガンに発展しない。何がこの差につながるのか? 今日まず紹介する米国国立衛生研究所からの論文は、全部で5570人という数の、ガン、前癌状態、正常の組織から分離したHPVの遺伝子配列を解読し、ガンを強く促進するウイルスの特徴が見つかるか調べた研究で9月7日号のCellに掲載された。タイトルは「HPV16 E7 genetic conservation is critical to carcinogensis(HPVのE7タンパク質は発がんにとって決定的)」だ。

実際に子宮頸がんにつながる危険のあるHPVの種類は数多いが、半分のガンはHPV16の感染が原因になっている。この研究では、可能性のあるすべてのウイルスを調べるのではなく、このHPV16だけに焦点を当てて遺伝子配列を比べている。この大規模調査から明らかになったことを以下のようにまとめることができる。

1) HPV16は極めて多様で、感染している人により、どこか遺伝子配列が違っている。要するに多様性の極めて高いウイルスだ。しかし、同じ人から調整したウイルスは同じで、何回も感染しないことを示している。
2) 感染するウイルスが最初からこれほど多様であることから、感染後細胞内でウイルスが変異するという考えは再検討が必要。
3) これほど変異が多いウイルスなのに、E7タンパク質の変異はほとんどなく、特に前癌状態や、子宮頸がんから分離されたウイルスのE7タンパク質は強く保存されている。
4) UPRやL2領域の遺伝子タイプから、ある程度発がんリスクを計算することができる。
以上の結果から、HPVの発がん性の中核はRB1と呼ばれる増殖抑制分子に結合して機能を抑え、細胞の増殖を促進するE7タンパク質で、このため他の部分にどれほど変異が重なっても、E7だけは変異が起こっていない。すでにHPVに感染してしまった場合は、元に戻れないので、今後E7を標的とする薬剤の開発が望まれる。

現在日本ではHPVワクチンはタブーになってしまったが、HPVがE6,E7とダブルでガン抑制機構を壊す分子を持っていることを考えると、感染を防げるなら子宮頸がんを撲滅することが可能だ。ただ、HPVの種類は多く、すべてのHPVに効くワクチンを製造するのは難しい。このため、最初は先に述べたHPV16とHPV18の2種類、それにHPV6、11を加えた4種類のHPVを用いたワクチンが開発されてきた。それでも約70%がカバーできるだけで、残り30%のウイルスへの対応が望まれていた。これに応えるべく、HPV6,11,16,18,31,33,45,52,58と9種類のウイルスをカバーするワクチンが製造されその効果が調べられ、今日紹介するアラバマ大学を中心とする18カ国の国際チームからの論文として発表された。タイトルは「Final efficacy, immunogenicity, and safety analysis of nine-valent human papillomavirus vaccine in women aged 16-26 years: a randomized double blind trial(9種混合HPVワクチンの効果と免疫原性と安全性:無作為化二重盲検治験)」だ。

この研究では組織的にもウイルスが感染していないことが確認されている16−24歳の女性を14000人集め、片方には9種ワクチン、もう片方には4種ワクチンを投与、子宮や膣のガンの発生が防げるか6年間追跡している。この研究では、ワクチンを打っていないコントロールはなく、あくまでも9種と4種の効果を比べる研究だ。

あらゆる詳細を省いて結論を述べると、4種でガンの発生が7割抑えられるのに対し、新しいワクチンによりガンの発生を90%抑制できることが明らかになった。一方、臨床的にはっきりした副作用はどちらのワクチンでも認められなかったという結果だ。

HPVが明らかにガンを誘導する分子を持っていること、その感染を9割減らすことができるワクチンが開発されたことを受けて、もう一度我が国でも冷静なワクチン議論が行われるが必要だ。それでもワクチンが進まないなら、中年になった時点で少なくとも感染ウイルスを調べてリスクを計算するぐらいのことはしてほしい。

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