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9月13日:パーキンソン病でリソゾームとミトコンドリアをつなぐ異常(Scienceオンライン版掲載論文)

2017年9月13日
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実際には最後までわかっていないのに、なんとなく全部わかった気になることがある。例えば、「パーキンソン病は黒質のドーパミン産生細胞が死ぬことで起こる」という説明は十分納得できるし、実際死んだ細胞を補う細胞治療も着々と開発されている。しかし、「なぜ黒質の細胞だけが死ぬの?」と改めて問い直すと何もわかっていないことを認識する。これに対し、シヌクレインやパーキン分子とパーキンソン病の関係が明らかにされると、最終的にリソゾームやミトコンドリア機能異常が関わりそうだというところまで来る。それぞれ細胞にとって重要な小器官なので「それなら細胞は死ぬ」とまた納得してしまうが、本当は理解すべき細部が存在する。そして、この細部にこそ治療可能性が宿っている。

今日紹介するシカゴ・ノースウェスタン大学からの論文はリソゾーム、ミトコンドリア異常両方が黒質の選択的細胞死を誘導するのか調べた論文でScienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Dopamine oxidation mediates mitochondrial and lysosomal dysfunction in Parkinson’s disease(パーキンソン病でのミトコンドリアとリソゾームの機能異常はドーパミンの酸化により誘導される)」だ。

この研究は最初DJ-1と呼ばれる酸化ストレスに抵抗する分子の欠損とパーキンソン病(PD)の関係を研究していた様だ。この分子が両方欠損すると、急速にパーキンソン病が発症してくる。この患者さんからiPSを作り、ドーパミン産生細胞に分化させてから、試験管内で培養を続け、DJ-1欠損PD由来細胞の変化を調べた。すると、全般的に酸化活性が高まり、50日目からミトコンドリアへの酸化ストレスが高まることがわかった。正常人由来のドーパミン細胞のDJ-1をCRISPR/Cas9でノックアウトしても同じ結果になる。さらに重要なのは、DJ-1は正常のPD患者さんでも、時間が経つとDJ-1の活性が低下することで、PD共通の分子異常が見つかったことになる。

次に、黒質細胞ではドーパミンと共通の経路でつくられるメラニンが蓄積するので、ドーパミン酸化が進むとメラニンを蓄積するリソゾームの機能異常も起こるのではと調べると、リソゾームのglucocerebrosidaseがまず選択的に低下し、その結果リソゾームでのタンパク質の分解も低下、シヌクレインの分泌異常へと発展することが明らかになった。さらに、パーキン、ピンクなど他の変異によるPDでも同じ結果が得られている。

これらの結果は、ミトコンドリア異常による酸化ストレスなどにより、ドーパミンやシヌクレインの産生が増加するとともに、酸化ドーパミンがリソゾームに蓄積してリソゾームの機能を阻害するという経路がPD発症共通の経路として特定できたことを意味する。そして、酸化防止剤やカルシウム代謝を変化させることでこの悪いサイクルを止めることが可能であることを示している。

最後にマウスではDJ-1をノックアウトしても同じ変化を誘導できないが、L-DopaをDJ-1が欠損したマウスに投与し続けると、人と同じ変化を起こすマウスモデルができること、ヒトとマウス両方のモデルで、カリシニュウリン阻害剤のFK506が酸化ドーパミンの蓄積を止めることを明らかにしている。

以上の結果は、もとの原因に関わらずほとんどのPDで、ミトコンドリアとリソゾームが酸化ドーパミンの異常蓄積を媒介につながっていることを示し、予防可能性を示した点で重要だと思う。ただ、FK506は免疫抑制効果も強いので、すぐ投与できるものではない。この発見が治療につながるには時間がかかりそうだが、間違いなく大きな一歩だと思う。また素人考えながら、DJ-1が低下してきた時点でのL-dopa投与法も考える必要があるだろう。ここからは、専門医と研究者の議論を深めて、治験や治療法の改善のためのプロトコル作成が必要になる。期待したい。

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