今日紹介するイスラエル・ワイズマン研究所からの論文はレーザーで細胞内の異なる場所を切り出してmRNAの量を調べる方法を用いてかなり多くのmRNAが腸上皮で不均等分布していることを示し、この機能的意味を調べた研究で9月22日号のScienceに掲載された。タイトルは「Global mRNA polarization regulates translation efficiency in the intestinal epithelium(多くのmRNAの局在が腸上皮での翻訳の効率を調節している)」だ。
神経や卵と比べると、腸上皮は極性があるとはいえ極めて小さく、分布に極性を持つmRNAを特定することは簡単でない。この研究では、腸上皮の断片からレーザーで先端部と基底部に分けて細胞質を取り出し、そこに含まれるmRNAの頻度を調べ、分布に極性が見られるmRNAを特定、特に極性がはっきりしたmRNAについてin situ hybridization法で実際の局在を確かめている。この実験から、レーザーでの切り出しで特定した遺伝子の分布と、in situ hybridizationで検出できる局在がほぼ一致することを明らかにした。予想通り、上皮でもmRNAの不均等分布は存在している。面白いのは、mRNAの局在と、翻訳されたタンパク質の局在は必ずしも一致しない点で、上皮構造に必須のE-カドヘリンはmRNAは先端部に、タンパク質は基底部に分布している。
タンパク質の局在とmRNA局在が一致しないとすると、では局在の意味は何か?
mRNAの不均等分布の意味を調べるために、先端部に分布するmRNAの分布を調べると、翻訳に関わるリボゾームのmRNAの多くが先端に、ミトコンドリアタンパクは基底部に分布していることを突き止め、この不均等分布が腸上皮の機能変化に伴う翻訳の効率を調節している可能性を追求している。
腸上皮の機能は栄養の吸収なので絶食時と食後の上皮を分離、それぞれの状況で分布が変化するmRNAを調べると、翻訳に関わるタンパク質が食後により強く先端部に局在すると同時に、全般的な翻訳の効率が上昇することを明らかにした。
あと、微小管重合を阻害してこの不均等分布が微小管によりオーガナイズされていること(何の不思議もない)も示しているが、話はこれだけで、レーザーキャプチャーを使って細胞の上下を分離した努力を除くと、特に驚くべき結果ではない。もし微小管によりこの分布が調節されているなら、これに関わる特別な分子の存在を明らかにする必要があるだろう。いずれにせよ、生物が平衡状態を避けるために努力しているこはよくわかる。