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10月6日:H4K20ヒストンメチル化とX染色体遺伝子発現(9月21日号Cell掲載論文)

2017年10月6日
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哺乳動物の場合、性決定にY染色体が関わっているが、ショウジョウバエや、線虫ではX染色体と、常染色体の比によって個体の性が決まる。詳細を飛ばしてザクッと言ってしまうと、普通はX染色体の数だけで性が決まる。このように最終的な性決定の仕組みは異なるが、これらの種共通の問題は、X染色体の数がオス、メスで違ってしまうことだ。そのため、X染色体上の遺伝子の発現を調節する仕組みをそれぞれの種は開発している。哺乳動物では、DNAのメチル化を利用して片方のX染色体全部の発現を抑えるX染色体不活化方法を取っているが、ショウジョウバエ、線虫などそれぞれメカニズムは異なっている。

今日紹介するカリフォルニア大学バークレイ校からの論文は、線虫でこの問題を研究する中で、新しいヒストン脱メチル化酵素DPY21を特定し、そのX染色体遺伝子発現量調節機能を明らかにした力作で、9月21日号のCellに掲載された。タイトルは「Dynamic control of X chromosome conformation and repression by a histone H4K20 demethylase(ヒストンH4K20脱メチル化によるX染色体構造と発現のダイナミックな調節)」だ。

線虫ではオスメスではなく、X染色体が2本の両性具有体と一本のオスに分かれており、両性具有体でX染色体の遺伝子発現を半分に低下させる必要がある。このメカニズムは詳しく研究されており、rexと呼ばれる場所を起点に多くの分子から構成されるDCC複合体が結合し、X染色体全体の転写を半分に抑えている。またこの時、X染色体特異的に20番目のリジンが一つだけメチル化されたH4ヒストンが染色体を覆うことがわかっている。ただ、これまでDCC複合体の中にヒストンのメチル化や、脱メチル化に関わる酵素は見つかっていなかった。

この研究では、DCC構成タンパク質の配列や構造を詳しく検討し、DPY-21がヒストン脱メチル化活性を持っているのではと着想し、期待どおりこの分子がH4K20にメチル基が2/3個付いたH4K20me2/3のメチル基を外してH4K20me1に変化させる活性があることを突き止める。

はっきり言って、この発見がこの研究の全てと言っていいだろう。あとはPY-21が実際に脱メチル化活性がX染色体の遺伝子発現調節に関わっていることを、酵素活性部位を失った遺伝子を導入した線虫を用いて調べている。結果を箇条書きにまとめると、

1) H4ヒストンのうちH4K20me1はX染色体上で、常染色体の2倍多く存在している。
2) このX染色体特異的変化は、すべてDPY-21の脱メチル化活性によっている。
3) このメカニズムは、200細胞期を超えた後、体細胞のみで働き、特に細胞周期の間期に働いている。
4) 脱メチル化活性がなくなると、X染色体上の遺伝子発現のみ上昇し、さらに普通はこの機構が働かないXが一本のオスで働くようにすると、遺伝子の発現が低下してオスは死んでしまう。
5) H4K20me1は染色体の3次元構造を調節して、エンハンサーとプロモーターの相互作用を変化させ、微妙な遺伝子発現調節を行っている。
6) 生殖細胞での遺伝子発現にも同じメカニズムがDCC非依存的に利用されている。

になるが、全てDPY-21がH4K20特異てき脱メチル化酵素であることの発見あっての結果だ。

この論文では、哺乳動物に存在する同じ活性を持った酵素も特定しており、哺乳動物でのH4K20me1の機能も明らかになると思うが、染色体の3次元構造を変化させて、インシュレーターの作用を調節するという魅力的活性があることから、急速に研究が進む予感がある。

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