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10月7日:染色体立体構造維持に関わるコヒーシンの役割(Natureオンライン版掲載論文)

2017年10月7日
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一般の人にはなかなか理解しにくい分野だと思うが、これまで何回も紹介してきたように、私たちのDNAは核内で全く規則性なく折畳まられるのではなく、きちっと大小の区分にまとめられて収納されている。もしこの区分が壊れると、染色体上での距離とは無関係に、極めて遠くにあるゲノム領域がもつれて関係のない遺伝子の近くに来てしまうことを防げない。その結果、各系列の細胞で厳しく制限される遺伝子発現が乱れ、細胞のアイデンティティーが失われる。この折りたたみを調節している主役が、CTCFとコヒーシンの2種類の分子で、以前紹介したようにCTCFが折りたたみの境界を定め、コヒーシンがDNAループの方向性を決めている。これが大きな枠組みだが、これらの分子の機能を欠損させた時細胞に何が起こるのかを調べ、詳細を詰める研究が最近加速している。

今日紹介するドイツ・ハイデルベルグにある欧州分子生物学研究所からの論文はコヒーシンを染色体にリクルートする分子を欠損させ、コヒーシンが働けなくした細胞で何が起こっているかを明らかにした研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Two independent modes of chromatin organization revealed by cohesin removal(コヒーシンの除去実験によりクロマチンの構造化に関わる2種類の様式が明らかになった)」だ。

この研究ではコヒーシン自体を除去する代わりに(この分子は他にも多くの役割があり除去すると細胞が維持できない)コヒーシンと染色体の結合に必要なNipblをタモキシフェン注射で除去できるマウスを使っている。マウスが成長してからタモキシフェンを注射、肝臓を取り出して調べると、期待どおりコヒーシンは染色体から外れていることが生化学的に確認される。

この状況でTADと呼ばれる染色体立体区域の形成を調べると、期待通りTADがはっきりしなくなっている。ただ、もう一つの染色体区域、コンパートメント化についてはそのまま維持され、転写がオンの領域と、オフの領域の区別がされている。一方、TAD形成のもう一つの主役CTCFの結合は変化ない。

ここまではほぼ予想通りの結果だが、この研究ではコヒーシンが除去されるとループがクラッシュする代わりに、TADより小さな単位の立体構築が強調され、またon型にコンパートメント化されている領域が中断され、中途に短いoff型のコンパートメントが挿入されることを発見している。この結果の解釈は難しいが、著者らはTAD構造を維持する機構がなくなることで、よりヒストンなどのエピジェネティックマークに依存する折りたたみが行われるようになった結果だと考えている。

コヒーシン除去の転写に及ぼす影響も調べており、TAD内のエンハンサーが作用しにくくなること、あるいは他のTAD領域の転写に介入してしまう確率が上がることなどを示しているが、それでも肝臓のアイデンティティーが失われていないのは、出来上がった細胞の転写が何重もの安全機構をもっていることを示している。

以上が結果で、この分野の進展の早さに驚く。発生学や転写に興味を持つ場合、難しくともこの分野には常に注目しておく必要があるだろう。論文を読むごとに驚きの尽きない、深い分野であることがつくづくわかる。

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