今日紹介するドイツ・ハイデルベルグにある欧州分子生物学研究所からの論文はコヒーシンを染色体にリクルートする分子を欠損させ、コヒーシンが働けなくした細胞で何が起こっているかを明らかにした研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Two independent modes of chromatin organization revealed by cohesin removal(コヒーシンの除去実験によりクロマチンの構造化に関わる2種類の様式が明らかになった)」だ。
この研究ではコヒーシン自体を除去する代わりに(この分子は他にも多くの役割があり除去すると細胞が維持できない)コヒーシンと染色体の結合に必要なNipblをタモキシフェン注射で除去できるマウスを使っている。マウスが成長してからタモキシフェンを注射、肝臓を取り出して調べると、期待どおりコヒーシンは染色体から外れていることが生化学的に確認される。
この状況でTADと呼ばれる染色体立体区域の形成を調べると、期待通りTADがはっきりしなくなっている。ただ、もう一つの染色体区域、コンパートメント化についてはそのまま維持され、転写がオンの領域と、オフの領域の区別がされている。一方、TAD形成のもう一つの主役CTCFの結合は変化ない。
ここまではほぼ予想通りの結果だが、この研究ではコヒーシンが除去されるとループがクラッシュする代わりに、TADより小さな単位の立体構築が強調され、またon型にコンパートメント化されている領域が中断され、中途に短いoff型のコンパートメントが挿入されることを発見している。この結果の解釈は難しいが、著者らはTAD構造を維持する機構がなくなることで、よりヒストンなどのエピジェネティックマークに依存する折りたたみが行われるようになった結果だと考えている。
コヒーシン除去の転写に及ぼす影響も調べており、TAD内のエンハンサーが作用しにくくなること、あるいは他のTAD領域の転写に介入してしまう確率が上がることなどを示しているが、それでも肝臓のアイデンティティーが失われていないのは、出来上がった細胞の転写が何重もの安全機構をもっていることを示している。
以上が結果で、この分野の進展の早さに驚く。発生学や転写に興味を持つ場合、難しくともこの分野には常に注目しておく必要があるだろう。論文を読むごとに驚きの尽きない、深い分野であることがつくづくわかる。