今日紹介するニューヨーク大学からの論文はNeroGridと呼ぶ電導性有機物を用いたディテクターを用いて、脳表面のフィールド電位と単一細胞からの活動を睡眠中にモニターし、rippleが本当に脳内各領域のコミュニケーションを反映しているのか調べた研究で10月20日号Scienceに掲載された。タイトルは「Learning-enhanced coupling between ripple oscillations in association cortices and hippocampus(連合皮質と海馬のripple振動の連動により学習が促進される)」だ。
NeuroGridでnon-REM睡眠中の脳表面のフィールド電位を広い範囲で同時記録し、各領域間の同調性を調べたのがこの研究のすべてだ。海馬と皮質の各領域、特に頭頂部や正中部で同調したripple を観察することができる。しかし、体性感覚野とは全く同調しない。実際、14%の海馬でのrippleは50ms以内の時間差で皮質でも観察され、両者で結合し、同調したシグナルを送り合っているのがわかる。また脳波全体が上振れするときに、皮質のrippleが発生することがわかった。そして、細胞レベルでは錐体細胞と介在神経細胞の両方の活動が、ripple型にロックされていることを明らかにしている。
最後に、では学習により皮質と海馬でrippleが上昇するか、迷路を学習する課題を行わせたラットを用いて調べ、迷路学習を繰り返すことで海馬と皮質の同調した活動の頻度が上昇することを示している。
話は以上で、これまでの研究から期待された通りの結果と言えるだろう。確かに、睡眠中のスパインの変化まで見ることができる世の中に、この方法は少し古典的に見えるかもしれないが、私はフィールド電位と神経細胞活動を対応させられる点で、人間の脳波理解には欠かせない技術になるように思っている。