今日紹介するオックスフォード大学動物学教室からの論文はまさにそんな例で、様々な要素についてのデータをもとに動植物の多様性を維持するための最も有効な政策を打ち出せる回帰モデルを提案した研究で今日発行のNatureに掲載されている。タイトルは「Reducition in global biodiversity loss predicted from conservation spending(保護に対する支出から予測される世界規模の生物多様性の低下)」だ。
統計学的にどこまで妥当か判断するほど知識はないが、この研究では生物多様性の保護条約に参加する各国のデータをもとに各国が何をすれば生物多様性を守れるのか予測できる独自の多変量回帰モデルを作成している。具体的には、自然保護国際連合から各動植物に関して報告された1996年から2008年までのデータを集めたRed Listを元に人間要因の影響と生物多様性保護政策を統合した多変量回帰モデルを作成して、生物多様性減少スコアを算出し、それぞれの国の問題点が浮き上がるようにしている。
この解析によると、アメリカ、オーストラリア、中国、インド、パプアニューギニア、マレーシア、インドネシアでは明確な生物多様性の低下が著しい。一方、モ−リシャス、セイシェル、フィジー、サモア、トンガ、ポーランド、ウクライナではこの期間に生物多様性は増加している。
詳細は省くが、一般的に最も影響の強い変数は、やはり生物保護のための支出だが、この影響も、経済発展速度や、農地への転用速度などに影響される。また、経済指標である一人当たりのGDPでは、中規模国で成長が高いと生物多様性の失われる速度が速くなる。一方、農地転用の影響を見ると、利用率が低い国で転用が進むと最も悪い影響があることが具体的数値として計算できる。
これらの結果をもとに各国の抱える条件に合わせた詳細な予測が可能で、例えばペルーでGDPなど経済要因が2003年レベルとすると生物多様性減少を50%にとどめるためには4.6百万ドル必要だが、社会経済学的状態が2012年レベルで計算すると5.7百万ドルが必要になるといった計算を示している。以上の結果から、このモデルはそれぞれの国についてかなり正確な予測が立てられると結論している。今回の研究は、各国の内的条件だけを変数にしているが、今後例えば中国での象牙の需要がアフリカ各国に及ぼす影響などを加えたさらに正確な推定が可能になることについての期待も述べている。
話は以上で、科学としての実感をあまり感じないが、政策への影響力が発揮できるなら、Natureに掲載する意味もあると思う。