私たちの細胞の膜は均一ではなく、細胞膜上の機能的タンパク質が濃縮した密度の高い領域が存在し、ラフトと呼ばれている。このグループは、MRSAの細胞膜を理解するにはこのラフトに対応する機能的膜マイクロドメイン(FMM)の生化学から新しい治療方法の開発が見えると考え、MRSAの細胞膜からディタージェントで分解しない領域を集めて成分分析を行い、FMMの主要脂質成分がstaphyloxanthinで、この脂質が膜タンパク質のFlotillinと結合するとその重合を促進し、その結果として分子密度の濃いFMMが形成される事を明らかにする。さらに、高解像度の顕微鏡や電子顕微鏡を用いて、FMMが生化学的解析から推定される構造と分子構成を持っていることを確認している。
次にFMMに濃縮されているタンパク質を質量分析器で解析し、FMMにペニシリン結合タンパク質のひとつPBP2が濃縮され、Flotillinと結合してPBP2が重合体を形成することを明らかにする。
このPBP2重合体形成がペニシリン耐性に関わるのではないかと着想し、コレステロールを低下させるスタチンを用いてFMMの形成を阻害すると、Flotillinと共に、PBP2の重合が阻害され膜上に散らばることを突き止める。この結果に基づき、MRSAを感染させたマウスをオキザシリンで治療するとき、スタチンも同時に投与すると、マウスの生存率を延長できる、すなわちMRSAが耐性を持っている抗生物質でも、FMMを阻害するスタチンを同時投与することで治療が可能になることを示している。
研究は、細胞膜ラフトの研究者から見ると、それほど驚く結果ではないかもしれない。しかし、スタチンとの共用でペニシリンの効果を高めることができるという結果は、今後MRSA治療を考える上で大変重要な貢献ではないかと思う。実際、すぐにでも応用可能な方法で早期の治験を期待したい。調べる気になれば、細菌をここまでの分析が可能だとよくわかった。