今日紹介する米国ペンシルバニア大学からの論文は今後MECP2の機能をさらに詳しく調べるための新しいモデルマウスを作成した研究で10月号のNature Medicineに掲載された。タイトルは「Biotin tagging of MeCP2 in mice reveals contextual insights into the Rett syndrome transcriptome(MeCP2分子を生きたマウスで標識することでレット症候群を細胞の条件に応じて調べることが可能になった)」だ。
この研究では、MECP2遺伝子の末端にビオチン化の標的になるタッグをつけ、ビオチン化酵素を任意の細胞で誘導することで、細胞内のMeCP2を生きたままビオチン化標識できるようにしている。さらに、同じ標識を2種類の機能低下突然変異にも導入することで、突然変異による変化を調べられるようになった。この結果、細胞を集めて核を取り出し、ビオチンに結合する蛍光アビジンで染めると、MECP2を発現している細胞の核だけを集めることができる。さらに、核膜に存在するNeuNを指標にすると、興奮性の神経と、抑制性の神経の核を分けて取り出せることを明らかにしている。
正常のMECP2と突然変異型のMECP2で核の染まりを比べると、突然変異型はクロマチンへの結合が弱いため、明確に正常のMECP2と分けることができる。この結果のおかげで、X染色体不活化で片方のMECP2しか発現していないメスの細胞を、突然変異型を発現している細胞と、正常型を発現している細胞に分けることができる。
この新しいテクノロジーをベースに、突然変異により転写が抑制されたり、上昇したりしている分子のカタログを作っているが、何か画期的なことが明らかになったとまでは行っていないので省略する。強いてあげるなら、メスマウスの皮質神経でMECP2が正常型でも、突然変異型の細胞と同居するとストレスからか転写の異常が起こっていることを見出している。特に、神経細胞の興奮により誘導される遺伝子が強く発現していることは、周りの突然変異型の細胞を補おうと異常な働きを強いられていることがわかる。これまで、レット症候群の脳は強く刺激されていることが示唆されているが、実際には正常の細胞の反応性の変化を見ていたのかもしれない。
いずれにせよ、今回できたマウスをさらに進めて、MECP2重複型の異常細胞へと解析が進めば重要な発見が生まれることは間違いがない。特に、結合しているクロマチンを直接解析できることは大きい。その意味で、この研究のこの分野の意義は大きいと思う。