今日紹介するペンシルバニア大学からの論文はこれまでの現象論的研究から因果論的研究を導き出した典型とも言える研究で11月15日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「A role for bacterial urease in gut dysbiosis and Crohn’s disease(腸内の細菌藪異常とクローン病に関わる細菌由来ウレアーゼの役割)」だ。
このグループは小児の腸炎症性疾患のコホート研究を進めており、この研究の中からクローン病では大腸菌やクレブシエラなどのプロテオバクテリア類が上昇していることを報告してきた。そして、これらの変化が腸内でバクテリア全体の窒素代謝の結果として現れるのではと着想した。
この研究ではまず、窒素代謝の元となるアミノ酸の便中の濃度をクローン病と正常人で比べ、食事による変化とは異なる細菌叢の変化に関わるアミノ酸がクローン病では上昇すること、そしてこのアミノ酸の上昇がプロテオバクテリアの上昇と平行していることを突き止める。このアミノ酸上昇がバクテリアがアミノ酸の原料となるアンモニアを尿酸から合成する代謝機能の結果であると考え、次に窒素同位元素を用いた追跡実験を行い、ホストが合成できないアミノ酸が同位元素でラベルされることを確認し、このアミノ酸の変化が確かに細菌叢内の窒素代謝変化によることを明らかにしている。
この結果から、腸内での変化の一因が、バクテリアのウレアーゼによりアンモニア合成が高まるためだと考えられるので、ウレアーゼを持つ大腸菌と、持たない大腸菌を準備し、抗生物質で腸内の細菌量を低下させたマウスに移植し、ウレアーゼ有無で回復する細菌藪を比べ、ウレアーゼを発現する大腸菌が存在するだけで、プロテオバクテリアの多い炎症型の細菌藪が成立することを示している。そして、この腸内細菌叢の変化の結果、腸の慢性炎症が誘導されることも確認している。
細菌藪を回復させる実験系はかなり凝っており、どこまで一般化できるのか難しい点もあるが、腸内細菌叢の構成が窒素代謝のネットワークで決まるというのは説得力がある。また、条件を絞った実験系とはいえ、ウレアーゼの有無で、腸内細菌叢が炎症型に変化したという結果も、ただバクテリアの増減を記述するだけの仕事と比べると、はるかに先に進んでいると言える。次は、細菌叢のウレアーゼを抑えて炎症を治療できるかが勝負になるだろう。