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11月20日:肺線維症の治療薬開発の可能性(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2017年11月20日
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肺が線維化するびまん性肺線維症には、慢性型と急性型がある。私の7年余りの短い臨床経験では、幸いというか、残念というかハマンリッチ症候群と呼ばれる急性肺線維症を経験することはなかったが、多くの慢性型肺線維症の患者さんを経験した。おそらく現在も、根本的な治療法はないのではと思うが、少しでも進行が遅くなるよう祈るしかない病気だった。急性肺線維症では線維芽細胞が増殖し細胞外マトリックスが増えて呼吸不全が起こるが、線維芽細胞が平滑筋細胞のような形に変化し筋線維症と呼ばれる病像を示すことも特徴の一つだ。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、上に述べた肺線維症の特徴を全て再現し、新しい治療法の開発の可能性を示した研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「ADAM-10 mediated ephrin-B2 shedding promotes myofibroblast activation and organ fibrosis(ADAM10により切断されたephrin-B2が筋線維芽細胞の活性化と組織の線維化を促進する)」だ。

この研究はまず、肺線維症患者さんの細胞の遺伝子発現が公開されているデータベースを調べなおし、EphrinB2の発現が亢進していることを見つけ、この現象をもう一度自分の患者さんで確認するところから始めている。私たちも経験があるが、公開のデータベースは宝の山で、常にアクセスして自分の考えを確かめてみることはIT時代の科学者にとっては基本的素養だと思う。いずれにせよ、標的分子が決まると、あとは常法に従って、その分子の機能を調べればいい。

この研究では、昔から肺線維症研究に使われていたブレオマイシン肺線維症モデルを用い、コラーゲンを作る細胞だけでephrinB2をノックアウトすると肺線維症の発生を強く押さえられることを確認し、次に肺の洗浄液を調べ、肺線維症ではephrinB2が大量に分泌されていることを発見して、この分子の分泌が肺線維症誘導の主役であることを明らかにした。

もともと細胞表面に発現しているEphrinB2が分泌されるということは、細胞表面からプロテアーゼで切り出され、それが線維芽細胞を活性化されていることになる。これを確かめるため、まずephrinB2の細胞外ドメインを免疫グロブリンFcと結合させたキメラ分子をマウスに投与、分泌されたephrinB2が線維芽細胞の遊走、組織への浸潤、そして筋線維芽細胞への転換を誘導し、さらにマウス体内で肺線維症を引き起こすことを示している。すなわち、期待どおりこの分子が線維化の主役として働いていることになる。 最後に、ephrinB2を細胞膜から切り出し分泌させる分子がメタロプロテアーゼ分子の一つADAM10で、この分子の酵素活性を阻害してephrinB2の分泌を阻害すると線維芽細胞の筋線維芽細胞への転換が抑えられることを示している。実際の急性肺線維症の患者さんでもADAM10とephrinB2が上昇していることから、ADAM10を新しい標的とする線維症の治療が可能であることを示している。

これまで治療標的として研究されてきたTGFβやPDGFβ、そして今回明らかになったADAM10などは阻害剤が存在するが、それを患者さんの数の多い慢性線維症に使うとすると、副作用などまだまだ克服すべき問題が多くあると思う。しかし治療の難しい急性肺線維症で坂道を転がるように病気が進むのを抑えることに使える可能性は十分あるように思う。ぜひ臨床研究を期待したい。

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