今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文はそのプラナリアの再生についての研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Orthogonal muscle fiberes have different instructive roles in planarian regeneration(直行して走る神経線維はプラナリアの再生に異なる指令を出している)」だ。
おそらく発生学という観点でみれば、この研究は古典的研究と言っていいだろう。最初は、プラナリアの体を縦横に走る筋肉の発生を調べる目的で、筋肉の発生に関わるMyoD遺伝子をRNAiで抑制したところ、縦に走る筋肉だけが消失、横に走る筋肉は影響されないことがわかった。プラナリアの素人の私から見ると、これ自体面白い現象だと思うが、プラナリアの名前が持つミッションに後押しされたのか、著者らは縦に走る筋肉を欠損すると、縦軸の再生ができなくなることに着目し、この研究を始めている。
プラナリアの再生は、まず切断部分の修復と多能性のネオブラストが集まり、細胞分化が始まる。この時、欠損が大きいと2日目ぐらいから体の構築が再生される。縦の筋肉が欠損したプラナリアの遺伝子発現を詳しく調べ、Wntシグナルを抑制するnotumとTGFβシグナルを抑制するフォリスタチン(fst)の発現が低下し、実際fst遺伝子の機能を抑えるとmyoD抑制と同じで再生が抑制されることを発見する。そして最終的に、これらの分子が、再生の後期のネオブラストの持続的供給に必須であることを示している。
他にも、再生シグナルカスケードについての実験を行ってはいるが、この先のレベル、例えば細胞学的レベルになると結局わからないまま、縦の筋肉がないと、fstによるアクチビン抑制が出来なくなり、細胞の供給が続かないという話で終わる。
その代わりに、横に走る筋肉にNkx1が必要であることを発見、横の筋肉が欠損するとどうなるか調べている。ただ、この解析は中途半端で、頭が二つできたりする個体が現れる例から、中心線が2本できると解釈している。縦に切ると、再生は起こり目が余分にできることが示されているが、メカニズムがはっきりしない。なぜ縦に切る実験をもっと数多く行っていないのかなど、まだまだという感がする。
結局縦横それぞれの筋肉が異なるメカニズムでネオブラストの維持を指令することはわかったが、これ以上の発展の道筋は伝わってこなかった。この分野も、そろそろ新しい視点が必要に思える。