しかし上には上がある。甲虫の消化管に共生している細菌の一種はなんと最初から0.27Mbのゲノムしかないという論文がエモリー大学の研究者から発表された。昆虫と共生するボルバッキアの優れた研究を進めている我が国の産総研も協力している。タイトルは「Drastic genome reduction in an herbivore’s pectinolytic symbiont(草食の昆虫でペクチン分解を受け持つ共生細菌ではゲノムが大きく縮小している)」だ。
この研究ではカメノコハムシの共生細菌を調べる中で、ボルバッキアとともにStameraと呼ばれる細菌が存在するのを発見する。またこの共生の広がりを調べるため、我が国をはじめとするこの分野の研究者の協力を得て、全世界のカメノコハムシでこの共生が起こっていることを確認する。
次にこの共生関係が驚くべき巧妙さで行われていることを示している。共生細菌は子孫に伝わる必要がある。後で述べるがStameraは消化管内で働く。しかし消化管の細菌は子孫に伝わらない。驚くことに、Stameraはメスの生殖器官にも存在し、さらに卵の周りのカプセルにも存在する。これが子孫に伝わる仕組みで、この時Stameraを卵から取り除くと、幼虫の生存率が極端に落ち、共生が必須であることを示している。
そして最も驚くのは、ゲノムが271175bpしかなく、251個の遺伝子しか存在しないことだ。18種類のタンパク質を除く残りの機能はほぼ特定できる。Stameraは植物の細胞壁のペクチンを分解して昆虫に提供する役割を演じているが、期待どおりこれに関わる遺伝子群が存在する一方、代謝に関わる遺伝子の多くを失っている。これがこの研究のハイライトで、あとはペクチン分解酵素遺伝子群の機能をしらべて共生がペクチン分解を介していることの証明を行っているが、詳細は省く。
この発見のすごいのは、卵の中でStameraが維持できるという発見だ。強く増殖はしないのかもしれないが、要するに卵の中にStameraの生命を維持する養分が存在するということになる。従って、培養が可能になる確率は高く、生命発生を考えるための生物として今後重要なモデルになるだろう。面白い生物を通り越して、エキサイティングな生物の発見だと思う。