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12月5日:酵母の全てのヒストンをヒトのヒストンに換えてしまったら?(12月14日号Cell掲載論文)

2017年12月5日
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細胞周期など最も基本的な機能に関わる分子は真核生物間で保存されており、酵母の遺伝子を人間の遺伝子で置き換えても十分機能することが多い。ただ、多くの研究では一個の遺伝子を変換するだけで、機能に関わる全ての分子を置き換えてしまう実験をするのは難しい。
今日紹介するニューヨーク大学からの論文は全てのヒストンが人間の分子に置き換わった酵母を作成した研究で、ヒストン進化で起こった機能変化について様々なことを教えてくれる研究で12月14日号のCellに掲載された。タイトルは「Resetting the yeast epigenome with human nucleosomes(酵母のエピゲノムを人間のヌクレオソームにリセットする)」だ。
染色体の構造を維持しエピジェネティック制御の基盤であるヒストンは酵母から人間まで遺伝子がよく似ており、4種類のコアヒストンの類似は70−90%に達している。この研究ではまず酵母の全てのヒストンがノックアウトされ、その代わりに酵母とヒトのヒストン持つプラスミドベクターで増殖する酵母株を作成し、増殖が安定したところで酵母のヒストンを持つプラスミドが除去されるような選択をかけることで、ヒストンが全て人間型になった酵母を分離している。

と言っても実際には生やさしい話でなく、ヒト型ヒストンに変えた1000万個の酵母からようやく一個ゆっくり増殖するコロニーが分離できただけという絶望的に低い確率だ。しかも、増殖が遅いため、コロニーを確認するのに20日もかかっている。この執念が、この仕事の全てと言っていいだろう。

一株でも分離できると、あとは様々なことがわかる。一つのクローンから数株を分離してそれぞれを増殖させるうち、人間型ヒストンに適した適応が起こり、様々な遺伝子の変異した株が取れる。20種類以上の突然変異や染色体異常が起こることで、ヒト型ヒストンが起こす問題に対応している。このような適応は、細胞周期に関わる遺伝子に起こっており、ヒト型ヒストンで細胞周期のチェックポイントで止まるのをバイパスできる変異が入ったと考えられる。逆に、導入したヒト型のヒストンに変異がないのも面白い。

この系では、様々なヒストンを導入して、ヒト型と比較することも簡単にできる。これにより、人型のH3及び H2AヒストンのC末が増殖抑制に聞いていること、ヒト型のヒストンは酵母のそれと比べ転写抑制的であること、しかしヌクレオソームの構造は変わらないこと、この結果細胞の大きさを決める遺伝子の転写が抑制され、細胞の大きさが倍以上になること、ヒト型のままでは環境適応が遅くなることなどを明らかにし、増殖が中心で分化の選択がほとんどない酵母のヒストンが、転写抑制的なヒストンに進化していくプロセスの理解がこの系で進む期待を持たせる。多くの実験が行われているが、これらは入り口で、今後さらに面白い詳細が続々発表される予感がするエキサイティングな論文だった。

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