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12月13日:Delay Discountingて何?(Nature Neuroscienceオンライン版掲載論文)

2017年12月13日
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タイトルを見てもその意味がすっと頭に入ってこない論文があると、ある意味ショックを感じる。今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文のタイトルに含まれているdelay discounting(遅れることを安く見積もる)がまさにそれにあたる。タイトルは「Genome-wide associated study of delay discounting in 23,217 adult research participants of European ancestry(ヨーロッパ出身の研究参加者23217人の中に見つかるdelay discountingの全ゲノム関連解析)」で、Nature Neuroscienceオンライン版に掲載された。

タイトルからわかるのは、delay discountingという状態の人のゲノムを調べた研究だが、肝心のdelay discoutingが正確に何を意味するかは調べるまで全くわからなかった。いろいろ調べてみると、後々の効果より現在の欲望を優先することのようで、例えば今ここにあるケーキを食べると、後々の健康に問題があることがわかっていても食べてしまうことを指すようだ。目の前のケーキを我慢できるかだけを取ると、私自身、delay discountingに分類されることになる。要するに、長期的視点が持てないことだが、もちろん今ケーキを食べるのを我慢できるのかは一つの例で、この研究ではアンケート調査を行いdelay discountingの程度を洗い出している。具体的には、今14ドルもらうか、19日後に25ドルもらうかどちらがいいか、あるいは今25ドル、14日後に60ドルのどちらがいいかなど、様々な比較をもとにDD度を判断している。

このテストを受けた23127人について、delay discounting(DD)がどのような病気と相関するのか、あるいはどの遺伝子多型と相関するのか、ゲノムのSNP検査を提供している232&Meと提携して調べている。

まずDDと病気の関連を調べると、肥満、喫煙と強く相関する。要するにDDは意志が弱いことと相関する。しかし、酒の消費やアルコール症とはあまり関係がない。肥満はともかく、これを聞くと自分はかろうじてDDではないなと安心する。さらに疾患との相関を調べると、うつ病やADHD(注意力欠如・多動性障害)が強く相関するが、双極性障害や、統合失調症は特に相関はない。

さて、この性質に関わる遺伝子多型が見つかるかが次の問題だが、X染色体上に存在するG6M6B遺伝子(セロトニントランスポーターの細胞内への取り込みに関わる)のイントロンに存在する多型rs6528024と強く相関することが明らかになった。セロトニンの発現はうつ病の発生と重要な相関があるので、自殺したうつ病患者さんの脳を調べると、確かにGPM6Bの発現が低下しており、DDとうつ病の相関を考えると、納得できる結果だ。

まとめてしまうと
1) いわゆるDTCと呼ばれている遺伝子検査サービスを使うと、DDのような性格についての遺伝子解析が容易に行えること、
2) DDがうつ病と強く相関していること、
3) 統合失調症と相関すると言われているADHD患者さんのDD度を調べることで、2タイプに分類可能なこと、
4) 生物学的にも意義が明瞭な遺伝子の多型と関係していること、
になる。

個人的にはDelay discountingという単語を学んだ以外は、それほど面白い仕事とは思えないが、DDがうつ病と相関するとすると、実際にはどう訳すべきか迷ってしまう。よく言えば「今を大事にする」だし、悪く言えば「計画性がない」になるだ。一つはっきりしていることは、選挙のためだけを考えバラマキ政策を続ける今の政治家は全てdelay discountingと言えるが、到底うつ病になるとは思えない。

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