今日紹介する中国安徽大学からの論文は子宮内のNK細胞が胎児の成長を助けるという予想外の話で12月19日号のImmunityに掲載された。タイトルは「Natural Killer cells promote fetal development through the secretion of growth promoting factors(NK細胞は成長促進因子を分泌して胎児の発生を促進する)」だ。
この研究は、妊娠初期に子宮内のNK細胞数が上昇し、胎盤形成後に数が減るという現象に着目し、妊娠初期にNK細胞が重要な役割を演じているのではと着想したことに端を発している。着想してしまえば、NK細胞はよく研究されており、道具も揃っている。
まず子宮のNK細胞がCD49陽性で転写因子eomesoderminを発現しているポピュレーションであることを確認し、このNK細胞が胎盤に分化するトロフォブラストの発現するHLA-Gに刺激され、IGF2,ITGAD(インテグリンファミリー)、血管増殖因子などが分泌されることを突き止める。
次に、遺伝子操作でNK細胞が欠損したマウスを調べ、NK細胞が欠損した母親では、胎児数が低下し、骨格を中心に発達遅延が起こることを示している。この異常は、年齢が高い母親でより著明に見られるようになる。
最後に、体外受精した人間の胚についても調べ、HLA-Gが発現していることを確認したあと、習慣性流産の患者さんの子宮脱落膜中のNK細胞数を調べ、予想どおり数が半分以下に低下していることを調べている。
その上でマウスの実験で、NK細胞を静脈内に移植すると、NK細胞欠損による発生異常を治すことができることを示すとともに、移植実験でNK細胞が分泌する増殖因子が胎児発生にかかわることも証明している。
話は以上で、わかりやすいシナリオだ。もし習慣性流産患者さんで、なぜNK細胞が減っているのかまで説明できれば、満点だっただろうが、これについてはわからないままだ。しかし、NK細胞であることがわかっているので、遺伝子発現など原因を突き止めることもそれほど難しくないだろう。習慣性流産の患者さんの治療については新しい切り口なので、今後臨床研究も速やかに行われるような気がする。