今日紹介するシンシナティ大学からの論文はオーソドックスな手法でこの疑問を解いてくれた研究で1月11日号のCellに掲載された。タイトルは「R-2HG exhibits anti-tumor activity by targeting FTO/m6A/MYC/CEBPA signaling(R-2HGはFTO/m6A/MYC/CEBPAシグナルを標的に抗腫瘍効果を示す)」だ。
R-2HGはIDH変異体のみにより合成されるため、正常細胞では存在しない代謝物だ。この研究は、変異型IDHによってのみ合成されるR-2HGが本当に細胞の増殖を誘導するのか急性骨髄性白血病AMLの増殖を指標に調べるところから始めている。結果はこれまでの予想に反して、多くのAML株の増殖が抑制され、マウスに移植するモデルでも、R-2HG投与で生存期間を延ばすことができることがわかった。R-2HGによる増殖抑制機構を調べるため、R-2HGの効果が有るガンとないガンの遺伝子発現を比べ、ガン遺伝子MYCが活性化する分子が低下することを発見する。
もともとこのグループはRNAメチル化について研究していたグループで、MYCの活性が低下するのがRNAメチル化酵素FTOを抑制しているからではないかと着想、R-2HGがFTOを抑制することを発見する。他にも、R-2HGはDNAの脱メチル化に関わるTET2も抑制するが、これはR-2HGが効かない細胞株でのみ見られることから、この場合はガンの増殖を上げる方向に働いている。したがって、R-2HGが効果のあるガンに対する作用はFTO抑制がメインの経路で、MYCのRNAメチル化が低下、その結果RNAが不安定化してMYCの活性が落ちることで、細胞の増殖が低下することを示している。他にも、骨髄性白血病の増殖に関わるCEBPAのRNAの安定性も低下させ、これもFTO転写の低下に関わることも示している。
一方、R-2HG抵抗性のガンでは、DNA脱メチル化を介してガンの増殖を抑制するTET2が直接抑制されるため、MYCの不安定化をカバーしていると推察している。
この結果は、グリオーマのドライバーはIDH変異ではなく、逆にIDH変異がグリオーマの急速な増殖を抑えている可能性も示唆する。すでに述べたように、IDH変異は良い予後因子であることがわかってきたが、今回の結果はこれも説明できる。とすると、現在行われているIDH変異分子の活性抑制によりガンを制圧する可能性は低く、逆に悪化させる可能性すらあることを意味しており、注意が必要だ。
一方、R-2HGやFTO阻害因子は、それ自身で根治はできないが、他の抗癌剤と組み合わせて抗癌剤として利用できる可能性がある。他の細胞にももちろん効くため副作用がないとは言えないので、薬剤として利用可能か早急に調べて欲しい。でないと、結局論文のための論文になる。
なんでも疑って見ることが重要であることを示すいい例といえるが、もともとわかりにくいIDHについて学ぶことが多かった。