今日紹介する最初の論文はスウェーデン・ウプサラ大学からで、ガラパゴス諸島のダーウィンフィンチを対象に交雑が早い進化を誘導することを示した研究で、我々ホモサピエンスの進化ともオーバーラップする面白い研究だ。タイトルは「Rapid hybrid speciation in Darwin’s finces(ダーウィンフィンチの早い交雑種文化)」で、Scienceオンライン版に掲載された。
ダーウィン進化論の形成に重要なヒントを与えた鳥として、彼の名前が付けられているガラパゴス諸島に生息するダーウィンフィンチは、各島の環境に合わせて独自の形態進化を遂げたことで有名で、生物学者の心の故郷とも言える鳥だ。私も初めてガラパゴスに降り立った時、空港から出て最初に見た鳥がフィンチだったので感激し、思わずシャッターを切っていた。
フィンチに関しては移動距離から、異なる島の間で交雑が行われることはほとんどないと考えられてきた。この研究のすごいのはサンタクルス島の近くのダフネ島(くちばしの小さなfortisが固有種)に100km離れたエスパニョーラ島から飛来したくちばしの大きなconirostris種が交雑し、その後6代にわたって近親間での交雑を繰り返し、最終的に現在40羽近くに達したファミリーを30年にわたって追跡し続け、サンプルを収集したことに尽きる。フィンチのコホート研究と言えるが、この気の長さはそう真似できることではない。
詳細を省いて結論を急ぐと、全く形質が異なるオスと交雑して新しい遺伝子が導入された後、世代を追うごとにくちばしの大きくて深い、体がfortisより大きめの新しい種が生まれつつあるという話だ。世代が進むごとにくちばしが大きくなっていることから、島にある固い実を食べる能力が生殖優位性として働く自然選択を目にすることができたと結論している。
おそらく、他のfortisと交雑が見られないことから、一種の種分化が進んだと考えているようだが、本当に生殖不可能かどうか確かめられているわけではない。
他にも、くちばしの形態を決める遺伝子についても候補を特定しているが、今後の研究が必要だ。ただ、ガラパゴスの生物を自由に操作することは許されないと思うので、このまま丹念にコホート研究と、他の種との比較を続けることになるだろう。
ともかく、30年この子孫を観察し続け、サンプルを残していたおかげで、ゲノム時代の到来を最大限生かすことができたという研究だ。今後の発展が楽しみな研究だと思う。
今日紹介するもう一つの論文はカリフォルニア大学バークレー校からで、実験に用いられるアフリカツメガエルのゲノムが解読された後どんな研究が行われているのかの一端を垣間見ることができる研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Paternal chromosome loss and metabolic crisis contribute to hybrid inviability in Xenopus(アフリカツメガエルの交雑がもたらす生存不能の原因はオス側の染色体の欠失に伴う代謝クライシスに起因する)」だ。
昨年アフリカツメガエルゲノムが解読された結果、X.lavisは異なる種の染色体が4媒体のまま維持されている異質4倍体で、2倍体20本の染色体を持つX.tropicalisから約5000万年前に分離したことがわかったことだ。このように、ゲノムとしては似ていても染色体数が全く異なる場合、交雑させてできた子孫が維持されることは難しい。さらに、lavisとtropicalisの組み合わせでは、lavisがメス・tropicalisオスの場合は発生するが、逆でlavisの精子を受精させたtropicalisの卵は原腸貫入が起こる前に細胞が死んでしまうことがわかっている。
この交雑の結果、胚が死んでしまう原因を探ったのがこの研究で、これも詳細を省いて結論だけを急ぐと以下のようになるだろう。
Lavisは複雑な染色体構成を維持するため、染色体の分離に関わるセントロメア形成に独自の進化を遂げてしまったため、toropicalis卵の細胞質内では、特定の染色体の分離がうまくいかず、染色体が失われる。こうして常に特定の染色体が失われることで、代謝のアンバランスが生じて細胞が死ぬという話だ。
結局、tropicalisの細胞質でなぜ一部の染色体のみ動原体が形成できないのという最も面白い問題が課題として残ったままになっているのは残念だが、Lavisという交雑でできた種としてアフリカツメガエルの再登場を予感させる論文だった。
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