今日紹介するワシントン大学からの論文は7ヶ月児が他人の感覚を自分の感覚として再構成し直し共有できることを示す研究でDevelopmental Scienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Infant brain responses to felt and observed touch of hands and feet:an MEG study(手と足の感覚を感じ、観察する時の幼児の脳の反応:脳磁図研究)」だ。
この研究は、手を使って物をつかんだりできるようになり、周りの人間を区別するようになる7ヶ月齢の赤ちゃんを使って、2種類の実験を行っている。
最初の実験は、手や足を触った時に興奮する場所を脳磁図で調べている。これまで私たちが持つような体性感覚野が、幼児では明確に認められないと考えられていたようだが、この研究では、大人と同じように手と足に対応する体性感覚野が形成されていることが確認されている。
その上で、触られる経験をした幼児に今度は他の人間の手や足が同じように刺激されている様子をビデオで見せた時に、同じように手や足に対応する体性感覚野が興奮するかどうかを調べている。
他人が刺激されているのを見て感じるという複雑なプロセスでは、様々な脳内領域が興奮する。例えば、視覚野の興奮、視覚と運動の統合にかかわる領域、自己と他人を区別する領域などだ。このため、このままでは体性感覚野の興奮を特定しにくい。この研究では、触られた感覚で生じる時に特徴的なベータ波を拾い出すことで、他人が触られているのを見たときも体性感覚野が興奮することを特定している。
実際には、脳磁図データの数理的処理を徹底的に行っているため、結論ありきという懸念も残るが、この結論が正しいなら、幼児期にすでに、他人への刺激を見ただけで、もう一度自分の体性感覚として再構築する能力があることを示しており、個人的には驚く。もし今回利用された方法の信頼性が確認されれば、他人の感覚を自分の感覚とする能力がいつから生まれるのか、類人猿ではどうなのかなど、言語誕生に至る人間の社会性に必要なneural correlates(神経的相関)として研究が進むと期待できる。