今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文は長期間微量の神経作用物質を注入し続けその効果をモニターする装置の開発で1月24日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Miniaturized neural system for chronic local intracerebral drug delivery(脳内局所への薬剤投与のための小型化神経システム)」だ。
開発されたデバイスは電極と薬剤用注入用の針が組み合わさったもので、針の太さは外径30ミクロン内径20ミクロンという細いものだ。これに既存のマイクロポンプをつないでいる。
読んで感じるのは、要するにハリとポンプという簡単な組み合わせなのにこれまで実現していなかった点だ。開発までの苦労話が描かれるわけではないのでなぜそんなに難しいのか未だによくわからない。いずれにせよ、苦労の果てに(?)プロトタイプを完成させた。
まずこの針をラットに8週間留置し、組織反応が強くないことを確かめ、また期待通り正確にマイクロリットルレベルの薬剤の注入が組織内で可能であることを確認した上で、脳操作が可能か調べる実験に写っている。
まず抑制性GABA作動薬ムッシモールを片方の線条体に投与することで、局所の神経興奮を抑えることができることを確認し、これにより誘導されるラットが一つの方向だけに偏って動くかどうか調べ、期待通り片方の線条体の興奮が抑制されるとラットが円を一方向だけにぐるぐると回り続けることを確認する。
次に猿を用いて、やはりムッシモールで局所の神経興奮をほぼ完全に抑えることができること、またこの作用を人工髄液を用いて洗い流せることを示している。要するに月単位で薬剤を投与することが可能になることを示している。
話はここまでで、繰り返すがこれほどいろんな開発が進む現代、逆にこのような技術の開発ができていなかったのかと驚いた。しかし、この研究のおかげで、局所性が明らかな精神神経疾患の治療、幹細胞刺激因子による神経再生、がん治療など様々な可能性が開けるだろう。期待したい。
脳室内投与は頭蓋骨の割れ目を探ってシリンジの針を刺すようですが大変難しいそうです。BBBを透過しない薬剤や、血中半減期の短い薬剤を投与する実験にはいいですね。
量を絞れるので、ムッシモールのような半減期の長い分子をわざと使っているように思います。