ライデン大学からの論文で母親の飢餓状態により引き起こされるエピジェネティックな変化を追いかけた研究で1月31日号のScience Advanceに掲載されている。タイトルは「DNA methylation as a mediator of association between prenatall adversity and risk factors for metabolic disease in adulthood(出産前の災難と大人になってからの代謝疾患のリスクの関連はDNAメチル化により媒介されている)」だ。
この長期間コホート研究から、これまで妊娠時の飢餓により自閉症の発症率が上昇すること、及び年齢が高まるにつれインシュリン分泌が低下する糖尿病、そして脂肪代謝の異常によるメタボリックシンドロームが多発することが報告されてきた。自閉症の方は、妊娠時の神経発生に飢餓が直接作用したと考えられるが、成人後に起こってくるこのような変化は全て飢餓により誘導されるエピジェネティック変化によると推定され、これを示すデータが示されてきた。
今日紹介する研究もこの延長線上にあり、メタボリックシンドロームや2型糖尿病にかかった対象者の血液の全ゲノムレベルのメチル化を調べ、まずエネルギー代謝に関わるPIM3遺伝子の調節領域のCpGアイランドが、飢餓にさらされた後メタボになった個体で特異的にメチル化されていることを明らかにするのに成功する。
次に飢餓にさらされた後、高脂血症をきたした症例を集め、6種類の遺伝子の主に上流のCpGアイランドがメチル化されていることを発見する。このうち5種類はメチル化により遺伝子発現が低下していることも確認でき、個別に、あるいは共同して高脂血症に関わると考えられる
更に、妊娠初期に飢餓にさらされた子供が高齢になって高脂肪血症を示すケースを調べ、PFKFB3(回答系に関わる)及びMERRL8遺伝子(脂肪細胞生成に関わる)遺伝子上流のメチル化が妊娠初期の飢餓による高脂血症を説明できることを示している。
同様の結果はこれまでも発表されているが、今回のハイライトは死亡後の解剖により集めた様々な組織のメチル化と、通常便宜的に使われる血液のメチル化とを比べ、血液のメチル化パターンが、脂肪組織や大網細胞のメチル化パターンと相関していることを示しており、飢餓によって誘導されるメチル化が細胞特異的ではなく、多くの細胞で起こることを示している。このような結果は、対象者が高齢になって、死亡例が出るまで待たないと集めることができないが、まさにそのような長期の追跡が行われていることを実感した。
最後に、このようなコホート解析から何か新しい介入ポイントがわかるか考えてみたが、残念ながら妊娠中にダイエットをして胎児を飢餓に晒そうとするのはもってのほかだという以外に、介入の余地は無さそうだ。