今日紹介するジュネーブ大学からの論文は発ガン遺伝子を強制発現させた時に起こる複製ストレスをゲノムレベルで網羅的に調べた研究で、新しいアイデアというより、必要なことをしっかり調べたという研究だが、ガンを理解する上で様々なヒントを与えてくれる。Natureにオンライン発表され、タイトルは「Intragenic origin due to short G1 phases underlie oncogene-induced DNA replication stress(発ガン遺伝子により誘導されるDNA ストレスの背景にG1が短くなることにより発生する遺伝子内の複製開始点が存在する)」だ。
まず研究では、多くのガンで発現がたかまっているCyclinEを過剰発現させ、G1期が極端に短くなった細胞の複製開始点 (Ori)を全ゲノムレベルで調べ、新しい複製開始点が1000近く現れることを発見する。しかも、新しく生まれるOriのほとんどはS期の後期に現れ、しかも転写される遺伝子内部に生まれることがわかった。
Oriの多くは遺伝子と遺伝子の間に存在し、S期に入ると転写活性はほとんどないことが多い。従って、転写が終わらないうちにS期が始まることで、遺伝子内に新たなOriが現れるのではと、転写を遅らせる処置をすると、CyclinEを発現させたのと同じ場所に、新しいOriが現れる。以上のことから、G1期が短すぎると、転写がぐずぐずしている遺伝子内にOriが新たに生成されることがわかった。
同じ結果は、Mycガン遺伝子を過剰発現させても起こる。
こうして転写と複製がバッティングすると、複製フォークが止まって、DNAが切断すること、この結果細胞死が誘導されること、この切断箇所に他の遺伝子が転座しやすくなること、などを示しているが、はっきり言って予想通りの結果を実験的にしっかり確かめたという論文になっている。
しかし、マウスのES細胞のようにG1期が極端に短い細胞は他にもある。このような細胞ではどのようにOriが調整されているのか興味がわく。また、Oriのマッピングで、がんの性質を新しい観点から理解することも可能になるだろう。この研究で用いられた系は、あまりにも人工的なので、今後他の状況でのデータが欲しいが、できることをしっかりやり遂げるという研究の重要性が分かる論文だ。