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3月2日:南東ヨーロッパのゲノム構造の構成(2月21日号Nature掲載論文)

2018年3月2日
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3月2日:昨日に続いて、同じ国際チームが同じ号のNatureに発表した論文を紹介する。今日は南東ヨーロッパの民族のゲノム構築の形成過程についての研究だ。タイトルは「The genomic history of southeastern Europe(南東ヨーロッパのゲノムの歴史)」だ。

南東ヨーロッパは現代ヨーロッパのゲノム構造の一種の縮図で、この地区で7000年前に始まった農耕が西へ西へと拡大する。この過程で、人間の移動と交雑が重なって現在に至るゲノム構造が形成されるが、この歴史をゲノムから解き明かすためには、従来のような個別の解析から、南東ヨーロッパ全体を俯瞰できる大規模な調査が必要になる。

この研究では、バルカン半島、カルパチア盆地、黒海北部に広がる草原地帯に広がる地域から出土した、 BC12000からBC500年と推定される人骨215体のゲノムを新たに解析し、これまで解析が終わっている10体と合わせて、現代南東ヨーロッパ人ゲノムと比較している。

基本的にヨーロッパの民族は、東と西に分布している狩猟採集民、アナトリアの新石器時代の民族、そして黒海北部ステップのYamnayaを中心とした民族のゲノムが組み合わさってできていると言っていい。実際、今回解析されたゲノムを主成分解析でプロットすると、この3種類のゲノムを3点とする三角形の領域に分布する。この研究で調べられているのも結局、この3者のゲノムの割合が、それぞれのポピュレーションに混じっているかだ。

はっきり言って、今日紹介する論文の結論はわかりにくい。記述が、個々の領域のゲノム構造の記述に終始して、大きなシナリオが見えにくい。昨日紹介した論文では、土器の伝播とゲノムとの相関というわかりやすい問題があった。一方今日紹介する研究は、南東ヨーロッパのゲノムの構築という一般的な問題になってしまってわかりにくい。

しかし、それでもいくつか面白いと思った点をまとめておこう。

1)想像以上にヨーロッパ全土で交流があったようで、スペインに代表される西からの狩猟採集民との交雑のあとも早くから確認される。言い換えると、南東ヨーロッパのゲノム構築は極めて多様化しており、時間とともに複雑性を増す。
2)このことは、狩猟採集民がヨーロッパ中駆け巡っていたことを意味する。そして、この接点が南東ヨーロッパで、その結果さまざまな民族が形成されたようだ。確かに、南東ヨーロッパの民族が複雑であるのは、旅行すれば実感する。
3)新石器時代の各地域の交雑に際しての男女のバイアスを調べると、初期にはあまりバイアスがない。すなわち男女全体のグループでの交雑だったが、青銅器時代になると男性からのバイアスが見られる。ということは、各グループがより好戦的になって行ったのかもしれない。
4)しかし農耕がはじまると、東から西への移動が行われるが、狩猟採集民との交雑は低下している。
結局結論すると、南東ヨーロッパは今も昔もさまざまな民族がぶつかり合う接点で、これを反映して、ゲノムでも予想以上の多様性が見られるという話になる。さらに、この研究により、狩猟採集民の行動範囲が極めて広いことも明らかになった。今後、さらにのちの青銅器、鉄器時代からギリシア・ローマ時代に至るまでのゲノム構築が調べられると、ゲノムから見る歴史と考古学が統合されていく。何かワクワクする。

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