事実この過程を習うと、その合目的性に驚く。通常はBcl2ファミリーにより機能が抑制されているBak, Baxは、細胞死へのシグナルが検知されるとミトコンドリア細胞膜で複合体を形成する。この複合体を通してチトクロームCやアポトーシスを誘導する複合体が細胞質に飛び出す。これを待ち受けていたカスパーゼが害にならないよう切断し、細胞内の自然免疫メカニズムを刺激することなく処理される。事実、カスパーゼ複合体をノックアウトすると、ミトコンドリアDNAを含むコンプレックスがGas/Stingと呼ばれる自然免疫センサーを刺激し強烈なインターフェロン主体の炎症反応が起こる。
習えば習うほど、うまくできたシステムだと思う。ただ、各部分過程がどう統合されているかは、はっきりしていた訳ではなく、すべての過程が進行する様子を調べ統合する必要がある。今日紹介するオーストラリア・ウォルター・エリザホール研究所からの論文は各過程の鍵となる分子を細胞内で可視化して、この過程を統合して見せた研究で2月23日Scienceに先行発表された。タイトルは「Bak/Bax macropores facilityate mitochondrial herniation and mtDNA efflux during apoptosis(細胞死ではBak/Baxが大きな穴を形成してミトコンドリアの内膜のヘルニアを誘導してDNAを放出する)」だ。
この研究は新しい分子や、その機能を調べるのではなく、これまで蓄積された様々な道具を使って、アポトーシスの誘導から、ミトコンドリアの変化、そしてミトコンドリアDNAの細胞外への放出までを、各過程に関わる分子に蛍光分子を合体させることで可視化した研究で、いわばこれまでのアポトーシス研究の蓄積を最大限に生かした研究だ。多くのビデオが示され、紹介できないのが残念だが、論文のPDFにビデオが直接貼り付けてあり、クリックするとそのまま再生できるようになっており、大変助かる。今後、多くの論文でこのシステムが導入されるのだろう。
膨大な実験なので、詳細は全て省いてこの研究が明らかにしたシナリオだけを紹介しよう。
1) まずBak/Baxの機能を抑制しミトコンドリアの膜の健康を維持しているBcl分子の阻害剤を加えると、Bak/Baxが活性化され、まず小さな複合体を形成する。こうしてできる小さな穴を通してまずチトクロームCが細胞外へ流出する。
2) これによりBak/Baxがさらに大きな複合体を形成すると、ミトコンドリア内の内容物が、内膜で包まれたままBak/Baxでできる大きな孔を通って、ヘルニアを形成する。
3) これと並行して、ミトコンドリア間のネットワークが崩壊するが、これ自身はアポトーシスにはあまり影響しない。
4) 内膜に囲まれることで、ミトコンドリア内容物の生物活性は抑えられるが、内膜が徐々に壊れると、もちろんGAS/Stingシステムに検出される。しかし、カスパーゼが先に作用することで、自然免疫系の反応を低いレベルに抑えることができている。
以上、写真を見せられないのが残念だが、過程を統合するには見るのが一番ということが実感される研究だ。頭の整理がほぼ完璧にできた。