「糖尿病は慢性炎症によるインシュリン抵抗性が一つの基盤になっており、この炎症状態は腸内細菌による短鎖脂肪酸の分泌を上げることで、ある程度軽減することができる。食物繊維を多く含む食事は、腸内細菌の短鎖脂肪酸の分泌を促すので、インシュリン抵抗性の軽減に大きな効果がある。」ただ、このシナリオを厳密な臨床治験で確かめた研究はほとんどない。
その意味で、今日紹介する上海交通大学からの論文は食の科学的研究とはどうあるべきかを示した見習うべき論文だと思い紹介することにした。タイトルは「Gut bacteria selectively promoted by dietary fibers alleviate type 2 diabetes(食物繊維により選択的に促進される腸内細菌は2型糖尿病を緩和する)」で、3月9日号のScienceに掲載された。
この研究の目的は食物繊維が糖尿病に効果があることを示すことではない。食物繊維が、腸内細菌の短鎖脂肪酸の生産を促し、インシュリン抵抗性を改善して糖尿病の症状を軽減するというシナリオを臨床治験で証明するとともに、食物繊維がどの細菌に影響するのかを明らかにすることだ。
この研究ではこの目的のために、通常の食事とともに全粒穀物を中心に食物繊維が通常の2倍以上取れる副食を用意し、あとは両群とも糖尿病食を3ヶ月続けるというプロトコルを作成し、薬剤も両群グルコバイに限定して服用させることで、食物繊維の量の効果を特異的に調べられるようにしている。研究に当たっては、糖尿病患者さんを無作為に食物繊維の多い群と、普通の群に分け、科学性をできるだけ確保しようとしている。
さて結果だが、糖尿病食の効果で全患者さんでA1cの改善が見られるが、食物繊維が多い食事の場合、改善度合いが大きい。また、便に含まれる短鎖脂肪酸の濃度を測ると、酢酸には変化はないが、酪酸は1.5倍で、さらにGLP-1の含量も2倍に上昇している。
これらの結果は、確かに食物繊維により腸内細菌叢の短鎖脂肪酸の産生が高まることで、インシュリン抵抗性が改善、GLP-1分泌刺激などが起こって、糖尿病が改善されるというシナリオが確認されている。
このように無作為化試験で効果が確認された患者さんを対象に、次に食物繊維により腸内細菌叢にどのような変化が起こったのか、またどの細菌が短鎖脂肪酸の生産に関わるのか、便に含まれる細菌の全ゲノム解析という高度な方法で調べている。
膨大な量のデータをインフォーマティックスを駆使して計算し、食物繊維により増殖が促進する細菌を特定するだけでなく、実際にマウスへの菌移植により糖尿病の症状を軽減する直接の因果性の有無を調べる実験を組み合わせ、最終的に食物繊維により一部の細菌の絶対数が高まり、この中に短鎖脂肪酸を生産する酵素ネットワークを持つものがあることを確認している。
以上、これまでのシナリオを、実験疫学的に確かめ、さらにそれに関わる腸内細菌まで特定した点で、この分野ではかなり大きな貢献だと思う。北京ゲノム研究所からの論文でこの分野の中国の力は知っていたが、予想している以上の実力を備えたグループが存在していることを改めて実感した。
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