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3月17日;リボゾームに特異性がある(3月22日号Cell掲載論文)

2018年3月17日
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Diamond-Blackfan症候群(DB)という遺伝的赤血球減少症がある。血液学者や小児科医は別として、他の分野の人にはほとんど馴染みのない病気だと思う。しかし、血液を研究していても、この病気を深く理解できていたわけではない。この病気の原因となる遺伝子変異は、そのほとんどがリボゾームタンパク質の遺伝子に起こっている。従って、赤血球だけが特異的に障害されるとは考えにくい。私自身もこの問題を「リボゾーム機能が減少すれば当然タンパク質の合成効率は下がる。従って、赤血球減少症として見つかったのは、赤血球異常が発見しやすいからで、特に何か血液特異的異常があるわけではない。実際、半分の患者さんには、兎唇など他の発生異常が見られることから、リボゾーム機能が落ちれば、DBに見られる様々な症状セットが出るように人間はできている」などと勝手に解釈していた。

今日紹介するハーバード大学からの論文はなぜDBで赤血球低形成が目立つのかという問題にチャレンジした研究で3月22日号のCellに掲載された。タイトルは「Ribosome levels selectively regulate translation and lineage comm.itment in human hematopoiesis(人間の造血ではリボゾームRNAのレベルが選択的に翻訳と分化決定を選択的に調節する)」だ。

これまでDBはリボゾームタンパク質だけでなく、TSR2と呼ばれるシャペロンや、GATA1でも起こることが知られていた。GATA1は赤血球分化に必須の因子であり、機能が低下する突然変異で貧血が起こるのは当然だ。ただ、著者らはそれで納得せず、TSR、リボゾーム、GATA1をつなぐことでDBのメカニズムを深く理解できるのではと着想した。

そしてTSR2が核内シャペロンとしてリボゾームの成熟に関わり、その機能は酵母から人間までほとんど同じであること、そしてTSR2の機能が低下すると、リボゾームのレベルが低下し、GATA1タンパク質のレベルが低下することを明らかにしている。

すなわち、リボゾームタンパク質複合体そのものではなく、正常のリボゾームでも数が減るだけでDBと同じ症状を示すこと、そしてGATA1 mRNAが他のmRNAと比べこの影響を受けやすいことを明らかにした。もちろん、GATA1だけでなく、様々なmRNAがリボゾームと結合して翻訳される確率が落ちることも明らかにしている。おそらく、これら分子の異常が、DBでの血液以外の異常の原因になるのだろう。

あとは、GATA1の翻訳がなぜ選択的に低下するのかを追求し、転写開始点上流の5’UTRの長さと構造が、他のmRNAと比べて違っていることを明らかにしている。実際、他の血液細胞分化決定遺伝子の5’UTRをGATA1の5’UTRと交換すると、GATA1もリボゾーム現象の影響を受けなくなる。

以上のことから、DBではリボゾームのレベルが低下することが問題で、その結果5’UTRが短く構造が特殊なmRNAの転写が選択的に抑えられ病気になる。GATA1はその中の一つだが、個体レベルで見た時は症状に最も大きな影響を持つとまとめられる。

なるほどと納得したが、もちろんまだまだ謎は続く。なぜこのような5’UTRの多様性が必要なのか、胎児発生時にはGATA1依存性は低いのか、あるいは他の症状と、このモデルとの関係など、知りたいことは多い。とはいえ、考える枠組みはできたと思う。

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