今日紹介するミネソタ州ロチェスター大学からの論文は、この眠気がアルツハイマー病に関わるβアミロイドの蓄積と相関するという恐ろしい可能性に狙いを定めて、強い眠気とピッツバーグ化合物B (PiB)と呼ばれるβアミロイドと結合する分子を用いたPET検査データの間の相関を調べている。タイトルは「Association of excessive daytime sleepinesss with longitudinalβ accumulation in elderly person without dementia (痴呆のない高齢者では昼間の強い眠気とβアミロイドの蓄積が相関している)」で、3月12日号の米国医師会雑誌に掲載された。
研究では283人の高齢者で、痴呆症状がないと診断された人達に、メイヨークリニックで開発された昼間に起こる強い眠気(EDS)についての質問表に答えてもらい、これに連れ合いがいる場合はその証言も参考にして、自己申告された答えを基礎にEDSの程度を24段階に分類、このうち10段階以下の人達を強い眠気(EDS)陽性と診断している。
この指標を用いると、283人中63人がEDSと診断され、これまでの論文の結果とEDSの率は大体一致している。EDSと診断された人は、正常と比べ年齢が2歳ほど高いが、あとの様々な身体的指標では両群に大きな差はない。
こうしてEDSとnonEDSに層別化した後、全員に炭素同位元素で標識したPiBを用いて脳のPET撮影を行い、βアミロイドの蓄積具合を診断している。結果は明確で、調べた全ての脳領域で、EDSと診断された人の方が、有意にPiBの結合が高い。すなわち、βアミロイドの蓄積が進んでいることになる。
これまで不眠がアルツハイマー病の一つの診断基準と考えられていたが、少なくとも昼間眠たいかどうかで判断すると、眠たい人の方がベータアミロイドの蓄積が見られることになる。
結果はこれだけだが、この研究が正しいとするとEDS該当者としては気味が悪い。というのも、PiBが結合するのはアルツハイマー病と関係するアミロイド線維やプラークで、可溶性のアミロイド分画とは反応しないとされているからだ。誰でもある程度のアミロイド蓄積はあると笑って済まされない年になったことを思い知る。
以下に私の理解の足りない点を指摘してもらっております。その指摘もお読みください。
毎日の論文紹介、敬服しております。
日々楽しく読ませていただいております。
紹介論文についてではなく、西川先生のコメントに関して二点ほど書かせていただきます。
寡聞にして誤りがありましたらお許しください。
「不眠がアルツハイマー病の一つの診断基準と考えられていたが」とありますが、各種の診断基準や実臨床において、不眠をアルツハイマー病の診断基準に使うことはあまりないように思います。
また、アミロイドの画分に関してですが、不溶性のアミロイド線維やプラークよりも可溶性のアミロイドβオリゴマーの方が毒性が高い、という考えの方が一般的のように思います。
アルツハイマー型認知症ではPiB陽性率が高いですし、PiB陽性の健常群や軽度認知障害群はアルツハイマー型認知症になりやすいので、PiBの診断方法としての意義は高いと思いますが、その有意性はPiBが可溶性アミロイドβを認識しないことに由来するわけではないと思います。
少し安心しました。私の文章は間違ったままで、先生の文章をそのまま掲載して、訂正に使わせてもらいます。
迅速なご返信ありがとうございます。
診断基準に積極的に用いられないだけで、睡眠障害はアルツハイマー型認知症患者において珍しくないと思います。
PiBはアミロイドβオリゴマーを認識しませんが、PiB陽性の健常人は軽度認知機能障害orアルツハイマー型認知症に移行するリスクが高いという研究がありますので、将来のアルツハイマー型認知症発症との相関があると言えるかもしれません。
今後の論文紹介も楽しみにしております。