今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、急性の痛みおよび炎症による慢性の痛みが空腹によりどう影響されるのかを調べた論文で3月22日号のCell に掲載された。タイトルは「A neural circuit for suppression of pain by competing need state (競合するニーズが並存する状況で痛みを抑える神経回路)」だ。
研究ではBCGが入ったフロインド・コンプリート・アジュバント、フォルマリン、熱など、急性の痛覚刺激と、炎症による慢性痛を誘導する実験系で、24時間の絶食効果を調べている。驚きの結果で、空腹により刺激後30分ほどで現れる炎症性の痛みが選択的に、ほぼ完全に抑えられる。一方、急性の痛みには全く影響がない。一般的に痛みが強いと食べることもできず、治療を妨げる。これが正しければ、炎症性の痛みは、痛みで食べられず、空腹を覚えだすと抑えられてくることになるが、病気による痛みは複合しており、そう簡単な話ではない。
次に、この痛みを抑制する神経回路を調べている。空腹により活性化される神経細胞についてはダイエットの関係でよく研究されている脳弓状核などが存在する腹側部のAgRPと呼ばれている摂食活動に関わる領域をスタートとして、光遺伝学的に刺激をして痛みが抑えられる回路を特定している。結論としては期待どおり、AgRPが刺激されると、後脳にある結合腕傍核と呼ばれている痛みに関わる領域にシグナルが伝わり、痛みの感覚が直接抑えられることを示している。面白いのは、この回路が効果を示すのは、炎症性の痛みだけで、他の痛みには全く影響がない。また、脳の各部に神経伝達の抑制剤や、刺激剤を注入する実験から、ニューロペプチドYが痛みの抑制に直接関わることなどを示している。
最後に、逆の回路も調べ、今度は炎症ではなく急性の痛みだけが、摂食行動を抑制することも示している。
研究としては、高いレベルとは思えないが、1)炎症の痛みと、他の痛みが全く違う神経回路で調節されていること、そして2)痛みと空腹という共に生命に直接関わる状態が、相互に連結して、急性の痛み、食欲抑制、空腹、炎症による痛みの抑制と階層性を持った合目的行動につながっていることを示した点では面白い仕事だと思う。