自然免疫の研究がこれほど進んだので、生きた病原体がなぜ免疫誘導が高いのかについてはとっくにわかっていると思っていたら、案外そうではなかったらしい。今日紹介するベルリンのシャリテからの論文は大腸菌をモデルに生菌と死菌の免疫誘導能の差を調べた研究で4月号のNature Immunologyに掲載された。タイトルは「Recognition of microbial viability via TLR8 drives Tfh cell differentiation and vaccine response(TLR8を介して微生物の生死を認識することで濾胞型Tヘルパー細胞の分化が誘導されワクチン反応が成立する)」だ。
研究では、毒性を遺伝操作で除去した大腸菌に対する免疫反応をモデルに、まずヒトの単核球に死菌と生菌を取り込ませ、ヘルパーT細胞の誘導脳を調べ、生菌を取り込んだ単球だけが濾胞型の強いメモリーT細胞を誘導できることを示している。
あとは、生菌と死菌を取り込んだ単球の遺伝子発現を比べ、最終的にIL-12とTNFの発現が生菌を取り込んだ時だけに上がること、また濾胞型のT細胞の誘導にはIL-12を中心に、TNFなど幾つかの補助的サイトカインが必要であることを明らかにする。
最後に、このサイトカイン反応の誘導には細胞内リソゾームで発現する自然免疫受容体、TLR8が必須で、おそらく生菌の場合のみRNAを感知してIL-12分泌を誘導すると結論している。
話はこれだけで、ではこれで生菌と死菌の差を説明できたかというと、私は一部しか説明できていないと思う。一本鎖RNAは死菌にも存在する。また、天然痘や狂犬病などウイルスの場合と、肺炎球菌のような細菌の場合で、結果は同じなのか明らかにする必要がある。もちろん、TLR8のアゴニストをアジュバントにして、死菌でも同じ効果を持つユニバーサルなワクチン作成法が開発できればそれでもいい。
論文としては少し足りないと感じたのか、研究では豚をモデルにしたワクチン摂取実験、また人間のTLR8受容体で強い反応を示す多型を発見したことなどを合わせているが、本質ではないと思う。この研究は、アジュバント開発に至って初めて、その意義が出てくる。