今日紹介する上海第二軍医大学からの論文はTer119を発現するこれまで見つかってこなかった血液細胞系列を発見しTer細胞と名付け、そのガン細胞の増殖に関わる機能を明らかにした論文で4月19日号のCellに掲載され、懐かしいので取り上げることにした。タイトルは「 Tumor-induced generation of spleenic erythroblast like Ter cells promotes tumor progression(ガンにより脾臓で誘導される赤芽球様のTer細胞はガンの進展を促進する)」だ。
この研究では、肝臓ガン細胞を移植したマウス特異的に脾臓で誘導される細胞を探索し、Ter119陽性だが、血液細胞マーカーCD45陰性細胞がガンの増大とともに誘導されることを発見する。この細胞はCD71抗原も発現していることから未分化な段階の赤血球系細胞で、同じ細胞は胎児肝臓細胞でも見られ、遺伝子発現から巨核球と赤血球に分化する細胞から誘導されたと考えられる。
この細胞は癌の種類は問わないが、ガンにより分泌されるTGFβにより赤血球分化が促進することで誘導される。そこで、ガンの進展に対するTer細胞の関わりを検討し、Ter細胞が神経増殖因子の一つArteminを分泌し、この血中濃度が高いとガンがより悪性化することを明らかにしている。すなわち、ガンが大きくなり、TGFβが誘導されると、脾臓の赤血球増殖が高まり、その結果Ter細胞が誘導され、これがArteminを分泌してガンの増殖を高めるという、一種の悪性のサーキットができることになる。
さらにArteminがその受容体を介してガン細胞の細胞死を防ぐ経路も明らかにした後、マウスモデルでArtemin注射によりガンの進行が早まること、逆にArteminに対する抗体を注射することでガンの進行を遅らせることを明らかにしている。
話はこれだけで、不思議な細胞がいるという意味で面白いが、通常ガンが大きくなると造血は抑えられるし、治療によっても貧血になることを考えると、この経路が本当に長いガンの経過で常に働き続けるのかどうかは疑問に思う。その意味では、まだまだキワモノの域を出ないと思うが、Ter細胞が存在することは間違いなさそうで、喜納君も喜んでいるだろう。