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4月5日:IgA欠損症の腸内細菌叢(5月2日号Science translational medicine掲載論文)

2018年5月5日
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免疫システムは体内に侵入した病原体に対して働く専守防衛が原則だが、例外はIgA反応で、腸管などの体腔に分泌され、体外で働いている。ところが遺伝的にIgAが欠損しても、腸管などで激しい炎症が起こるというわけではなく、ミサイル能力はあまり意味がないのではと考える人もいた。ところが最近、腸内の細菌叢をIgAの結合している細菌と結合していない細菌に分けると、結合している細菌は病原性が高いことを示す論文が発表され、IgAの機能を再検討する必要が生まれていた。

今日紹介するソルボンヌ大学からの論文はIgA欠損患者さんと正常人の腸内細菌叢を調べ、この問題を明らかにしようとした研究で5月2日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Microbial ecology perturbation in human IgA deficiency(IgAの欠損した人の細菌叢生態の乱れ)」だ。

この研究では、まず20人の血中IgAが欠損した人たちを選んで健康状態を調べ、消化管の症状の程度がまちまちであることを確認する。すなわちIgAがないからといって、必ずしも消化管症状が出るわけではないことを確認している。

そこで腸内細菌叢が正常人と違っているか調べると、腸内細菌叢の多様性は正常人とほとんど違いはないが、IgAが欠損する人に共通に増える細菌種と減る細菌種があることがわかった。特に、抗炎症性のバクテリアは低下し、炎症を惹起するバクテリア種は増殖している。面白いのは、IgAが欠損する人では口内細菌が腸管に見つかる点で、今後重要な研究課題になるように思う。正常人の細菌叢はIgAを惹起する細菌と、惹起しない細菌に分けられるので、この差がIgA欠損症で増減する細菌と関係があるかを次に調べているが、確かにその傾向は認められても、これで決まりだという歯切れのいい結論にはなっていない。これは何千もの細菌種を扱う細菌叢研究の特徴で、大きな集団を相手にして最終的因果性を決めることの難しさを物語っている。IgA欠損という特殊な状態を調べた研究から決定的なことが学べるかと期待したが、そこまでのインパクトはなかった。

歯切れの悪さの原因の一つがIgA欠損をIgMが代わりをして、抗体の管腔内分泌が免疫原性の高い菌を抑える可能性も検討しているが、これも傾向は確かに見られるが、これで決まりと歯切れよく結論できない。結局細菌同士のネットワークが変化して炎症性の細菌が増加している点も加味して総合的に理解すべきとしている。

結局IgA分泌が炎症を抑えているかについては、IgAを分泌することで細菌叢のバランスが維持されてひどい炎症になるのを防ぐという結論に思える。IgA欠損症の細菌叢の包括的研究という意味では、重要な研究だし、例えば口内細菌の腸管への移行など面白い問題も見つかってはいるが、まだまだ群盲象を撫でるという印象が強い。今後、母親の抗体をミルクから供給する段階から、自分のIgAにスイッチした後での最近叢の変化を調べることも含め、さらなる研究が必要だと思った。

読んでいるうちに、専守防衛ではなく、敵地攻撃ミサイルも有効かなど、今の我が国での議論を見るような気がしたのは、連想がたくまし過ぎるか?
  1. 匿名希望 より:

    いつも楽しみに拝見しております。
    タイトル、5月5日ですね。
    最後から3行目も最近叢→細菌叢ですね。

    1. nishikawa より:

      指摘ありがとうございます。これからも、遠慮なくお願いします。といっても、謝礼は出ないのですが。

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