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5月12日 細胞から胚盤胞を再構成する(Natureオンライン掲載論文)

2018年5月12日
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マウスES細胞は、胎盤の元になる細胞と組み合わせると正常の胎児発生を遂げることができる。4倍体補完法と呼ばれる手法で、卵割時に細胞融合させて4倍体の胚を作り、その胚が胚盤胞まで発生した後、ES細胞を注入する。すると、4倍体細胞は胎盤にはなれるが、胚自体の形成ができないため、注入したES細胞だけからできた個体を得ることができる。この方法は、例えばiPSが単独で全ての細胞を形成できることを証明するための重要な手段として利用された。

いずれにせよ、バラバラになった細胞から極めて初期の胚を再構成することは簡単でない。4倍体でも、卵割を経て形成された胚の構造がないと、細胞の正常な発生が起こらない。この部分からだけ全体を再構成することが難しいことが、発生学の醍醐味でもあるし、また困難にもなっている。とは言え、この壁を破ろうとチャレンジは続けられている。

今日紹介するオランダ・マーストリヒト大学からの論文は、胎児の全ての細胞に分化できるES細胞と、胎盤を形成できるTS細胞からどこまで機能的な胚を再構成できるか調べた研究でNatureにオンライン出版された。タイトルは、「Blastocyst-like structures generated solely fromstem cells (幹細胞だけからできた胚盤胞様の構造)」だ。

これまでの長い研究で、正常個体の全ての細胞を形成できるES細胞と、胎盤など全ての胚外細胞は株化されている。この研究のゴールは、この2種類の幹細胞株を組み合わせて、個体へと発生する胚盤胞を形成することだが、もちろんこの研究ではそこまで達成できていない。達成できれば、世界中大騒ぎになっていただろう。ただ、不可能と諦めることはなく、最終段階に一歩近づいたことが示されている点では、重要な研究だと思う。

この研究では、ともかく胚盤胞に近い形態を作ることを最初のゴールに定め、24時間培養したES細胞塊にTS細胞を後から加えるという手法を用いて、ES細胞が内側、TS細胞が外側にある構造を作り、そこにWnt とcAMP シグナルを活性化させると、高い効率で胚盤胞様の構造が発生することを発見した。実際、内部細胞塊は多能性のマーカーNANOGを発現している。しかし、このままでは胚外のトロフォブラストはCdx2の発現が弱い。おそらく試行錯誤を繰り返し、この問題がFGF4,TGFβ,IL11を加えることで解決できることを示している。こうして形成した胚盤胞様構造内では、たしかに原始内胚葉まで観察できるが、私の目にも弱々しく、まだまだ構造化しているとは思えない写真だ。

一方、胚外のトロフォブラストについては完成に近づいているのがわかる。マウスの子宮に移植すると、子宮側の脱落膜反応を誘導し、正常胚を移植したのと同じ程度の胚外組織を形成する。ただ、胎児側の発生がないため、これ以上の発生は進まない。

この研究では、胎児側の発生条件を改善するのは諦めて、胚外組織の成熟を促す胚細胞の条件(例えば少し分化したEpiStemではうまくいかない)、あるいは胚外、胚内細胞の分子条件(BMP,Nodal, Klf6などの役割)についての研究に切り替えているが、詳細はいいだろう。実際には、脱落膜反応が確実に起こる胚外細胞まではできるが、内部細胞塊側の発生が組織化できていないため、これ以上発生が進まないことがわかっただけで大きな前進だ。あとは、ES細胞を継ぎ足したりして、原始内胚葉と原始外胚葉がしっかりと構造化した内部細胞塊をどう形成させるか、道は長いが最後の難関が代謝の問題であることもわかって、成功率は上がってきたと感じる。

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