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5月21日:デジャヴ(déjà-vu):RNAによる記憶の伝達(eNeuroオンライン掲載論文)

2018年5月21日
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自分でプラナリアを飼って見たことが大学時代に一度だけある。どの本だったかほとんど記憶にはないが、当時話題になっていたRNAで記憶を他の個体に伝達するという研究を集めた本を見て、プラナリアでの実験を自分でもやってみようと思い立ち、当時出入りしていた生理学教室の入交先生のお許しを得て大文字山から採取してきたプラナリアを飼育、条件反射の誘導などを実験した記憶がある。結局、完全な実験をやる前に臨床実習などが始まり、追試できるかどうかもわからず実験をやめた。なぜその気になったのか全く思い出せないが、記憶RNAの単純さに惹かれたのかもしれない。しかし、記憶が持続するシナプスの生理学的、解剖学的変化であることが明らかにされてからは、記憶RNAを省みる人などいなくなった。

ところがデジャヴと言えばいいのか、eNeuroオンライン版にUCLAの研究者が記憶研究の原点ともいうべきアメフラシを使ってなんと「RNA from trained Aplysia can induce epigenetic engram for long-term sensitization in untrained aplysis(学習させたアメフラシからのRNAは学習していないアメフラシの長期感作に必要なエピジェネティックな記憶痕跡を誘導する)」という論文を発表した。タイトルの中の、epigenetic という単語を取り除くと、1960年代に行われたRNAによる記憶誘導研究のデジャヴになってしまう研究で、当時の論文を引用するなど明らかに昔の騒ぎを意識している。おそらく私たちの世代の研究者が含まれているグループによる研究だと思う。

研究はアメフラシの有名な水管反射を誘導した個体からRNAを精製し、それをただ血管系の一種といえるヘモシールに注射するだけだ。すると、水管反射が他の個体に伝達でき、この伝達は刺激を感じる感覚神経系だけに起こり、運動神経には反応性の増加は起こらない。では、記憶成立に重要なシナプスの伝達性は変化したのか調べると、平均で見ると変化はないが、学習個体のRNAを注射したグループだけで実験間のバラツキが高く、シナプスが変化する可能性も残っているという難しい結論だ。

ただ、著者らも1960年代と同じ主張を繰り返す気はない。DNAメチル化阻害剤により、この伝達が完全に阻害されることから、学習によりノンコーディングRNAが誘導され、それがDNAメチル化を通して感覚細胞をリプログラムしたと真っ当な話にしている。

さて感想だが、この結論を導く実験としては間違った順序のような気がする。というのも、おそらくこの方法ではどのRNAかを特定することは難しいだろう。実際には、学習による転写やエピジェネティックな変化を調べて、記憶誘導の分子メカニズムを解明した上で、それを伝達するという順序が正しいように思う。その意味で、ちょっと遊んで見たという印象が強い。

とは言え研究が進むと、生物には様々な可能性があり、簡単に「あり得ない」などと判断するのは間違っていることも確かだ。

おそらく今も、生物についてはパストゥールの「すべての生命は生命から生まれる」のドグマを習うはずだ。同じ時代に生きたHenry Charlton BastianはArchebiosisを唱え、地球上で新しい生命が現在も誕生している可能性を主張したが、この説はダーウィンの番人ハックスレーニより圧殺される。しかし、生命が無生物から誕生しないと、生物は存在せず、よく考えればパストゥールのドグマは間違っている。しかし、Bastianのドグマも、生命誕生の条件を考えると、彼が考えたほど簡単に起こることはない。おそらくさらに無生物から生物が生まれるA-biogenesisの研究が進めば、パストゥールのドグマも歴史の一コマとして思い出されることになるだろう。

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