AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 5月24日:免疫に頼らずガンの根治は可能か(5月31日号Cell掲載論文)

5月24日:免疫に頼らずガンの根治は可能か(5月31日号Cell掲載論文)

2018年5月24日
SNSシェア
根治切除術が不可能なメラノーマの場合、最近では多くのメラノーマでガン化に関わるBRAF変異があっても、最初から免疫チェックポイント治療が行われるケースが増えてきたと聞く。確かに、BRAFの変異に対する分子標的薬と、その下流に効果があるMEK阻害剤の登場は、メラノーマの治療を大きく改善したが、残念ながら薬剤耐性のガンが現れ再発する。一方、チェックポイント治療でも再発はあるが、ガンの進展が抑えられ期間も長く長期生存例も報告されてきて、最初からチェックポイントでという気持ちもわかる。

今日紹介するオランダガン研究所からの論文はなんとか分子標的薬だけで根治するための開発研究で5月31日発行のCellに掲載された。タイトルは「An acquired vulnerability of drug resistant melanoma with therapeutic potential(治療可能性のある薬剤耐性を獲得したメラノーマの脆弱性)」だ。

研究ではまずBRAF変異を持ち、変異BRAF阻害剤MEK阻害剤が効くメラノーマを試験管内で培養し、耐性を獲得する腫瘍を分離し、得られた細胞株の耐性獲得メカニズムを調べている。実際の臨床例でも知られているように、薬剤耐性株のほとんどが、結局はRas-MAPK経路の新しい突然変異で耐性を獲得していることを発見する。このような耐性に対しては、より広いスペクトラムのキナーゼ阻害剤を使うのが一つの考え方だが、このグループは新たに活性化されてきたRas-MAPK経路により活性酸素ROSが上昇している点に注目した。即ち、活性酸素が高いということは、それだけ細胞がストレスにさらされていることを意味し、これをさらに高めてやれば耐性を獲得したがん細胞を除去する可能性がある。

そこで、実際に臨床に使えそうなROS誘導剤としてヒストンの脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を使って試験管内、ガン移植マウスモデル、そして実際の患者さんについて阻害剤耐性が現れた時に、HDAC阻害剤を加えてガンの増殖を抑えられるか調べている。さまざまな可能性を試しているので全てを紹介するのはやめて、要点だけをまとめると次のようになる。

1)BRAFやMEK阻害剤耐性腫瘍にHDAC阻害剤を加えると耐性腫瘍を殺すことができる。
2)MAPK阻害剤とHDAC阻害剤を同時使用を行うと、誘導されたROSがMAPKを活性化させるので、逆効果。
3)耐性が出たところで、MAPK阻害剤を中止し、HDAC阻害剤を加えると、耐性腫瘍を効率よく殺すことができる
4)HDAC阻害剤はROSを汲みだすポンプSLC7A11の発現を抑えることでROSの細胞濃度を上昇させる。
5)移植ガンの実験でも耐性獲得後HDAC阻害剤単剤で処理すると長期に進行を抑えられる。
6)人間の患者さんでも、同じ戦略が通用するが、現在まで調べることができた3例全例で半年ほどで腫瘍の増殖が観察される。

根治というにはまだまだだが、著者らは自信があるようで、HDAC阻害剤で増殖してくるのは、おそらくMAPK阻害剤に反応し、このサイクルを繰り返せばいいと思っているようだ。

薬剤を熟知して計画を進めている点はプロの仕事だと思う。ただCellに掲載されたのは、やはりヒトのメラノーマで一定の効果があった点が評価されたのだろう。免疫だけに頼らず、論理的に分子標的薬を使っていく方向は高く評価したいと思うが、実際どこまで有効か、現在治験が進んでいるようなのでそれを待ちたい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。