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5月30日:サテライト細胞(筋肉幹細胞)を静止期に保つメカニズム(5月23日号Nature掲載論文)

2018年5月31日
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生まれてからも筋肉は常に新しい細胞がリクルートされる幹細胞システムで、この新陳代謝の根幹にPax7陽性のサテライト細胞が存在することを明らかにしたのは、カナダのRudnickiとフランスのBuckinghamのグループだ。他の幹細胞システムと同じで、筋肉幹細胞システムの最大の課題は、幹細胞を静止期に導入し、時期が来たら静止期から増殖期へと転換させるメカニズムの解明だが、Notchシグナル及びcalcitonin受容体(CALCR)シグナルが幹細胞の維持に関わること以上のことはわかっていなかった。

今日紹介するパストゥール研究所とCreteil のINSERMのBuckinghamの弟子たちによる論文は、サテライト細胞の静止期に関わる二つのシグナルを関連づけ、静止期維持のメカニズムに一歩迫った論文で5月23日号のNatureに掲載された。タイトルは「Reciprocal signalling by Notch-collagen V-CALCR retains muscle stem cells in their niche(Noch、コラーゲンV、calcitonin受容体が互いに刺激しあって筋肉幹細胞をニッチに止める)」だ。

この研究ではまず静止期を維持するメカニズムを探るため、筋肉細胞内でNotch自身およびその下流のRBPJが結合するゲノム領域を探索し、これらがコラーゲンVおよびVI遺伝子の調節領域に結合していること、なかでもコラーゲンVが静止期から離脱すると発現が落ちることに注目し、静止期の維持に直接関わっているのではと当たりをつけ研究を進めている。

次に、分離したサテライト細胞に様々なコラーゲンを加え、コラーゲンVのみが増殖と分化を抑え、Pax7陽性幹細胞段階に維持する効果があることまた、幹細胞のコラーゲンV生産を抑えると、分化することとを明らかにしている。すなわち、筋肉幹細胞自身がNotchの働きで自分の幹細胞状態を維持する分子を分泌するという話だ。

次に実際これが試験管内での現象だけでなく、生体内でも起こっているかどうかを調べるため、好きな時期にサテライト細胞でコラーゲンVをノックアウトする実験系でしらべ、コラーゲンVが欠損すると幹細胞がすぐ分化することを示している。また、再生実験から、コラーゲンVが幹細胞により合成されることが必要であることも示唆している。

最後に、コラーゲンVと反応する受容体を探索し、すでに幹細胞維持に必須であることが知られているcalcitonin受容体(CALCR)と何らかの関わりがあると仮定し、CALCRが欠損するとコラーゲンVの作用がなくなること、CALCRを発現している細胞だけにコラーゲンVが結合すること、分子同士の結合は見られないことなどから、他のパートナーを介してコラーゲンVのシグナルが入ることで、静止期の維持が行われることを示している。

以上、Notch、CALCRとこれまでノックアウト研究を通して幹細胞維持に関わることがわかっていた分子が、コラーゲンVが新たに明らかにされることで、ついに一つの輪にまとまったという話だ。シグナル自体は、GpCR型受容体のCALCRから伝達されることから、元々のリガンドであるcalcitoninを含め、この受容体を刺激できる化合物で同じ効果があるので、今後この受容体のシグナルをうけて細胞内で働いている分子メカニズムもすぐ明らかになるように思う。幹細胞を静止期に維持する機構がまた一つ明らかになった。

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