我が国ではほとんどの妊婦さんが超音波診断を受け、胎児の一種の座高を測定し、予定日が計算されるが、これはかなり正確だと言っていい。ただ、早産リスクになると、胎児の大きさとは異なるさまざまなファクターが関与するため、内診や経腟超音波検査など、さまざまな検査を合わせて調べられる。検査自体は安全だが、妊婦さんの精神的負担は大きいと思う。
ところが今日紹介する論文を読んで、出産予定日や早産リスクを血液検査だけから診断しようとする試みがあることを初めて知った。既に異なるマーカーを用いる方法が開発されているらしいが、今日紹介するスタンフォード大学にFacebookのザッカーバーグ夫妻が寄付した講座からの論文は、血中に流れる胎児組織由来RNAを用いて診断する方法の開発を目指した研究だ。タイトルは「Noninvasive blood tests for fetal development predict gestationa age and preterm delivery(胎児の発生を調べる非侵襲的血液検査により胎児の週令と早産リスクを予測する)」だ。
研究では、母親の血中に、胎盤、胎児肝臓、免疫系各組織から流れ出てきた42種類のRNAの量を、毎週出産まで測定し、胎児の成長と最も相関するRNAを選び出している。ほとんどのRNAは胎児成長と概ね相関していたが、最も信頼が置けるRNAは全て胎盤由来で、最終的に9種類のRNAを出産予定日の算定のために選んでいる。まず二十一人の妊婦さんについてデータを集め、それをもとに予測のためのモデルを作り、このモデルの予測精度を超音波による予測と比べている。
予想されたことだが、超音波と比べると予測から大きく外れる妊婦さんの数は多い。しかし、誤差が前後1週間で予測された例でみると、ともに半数程度で超音波診断に匹敵するところまで来ており、他の方法と比べるとまずまずというところだと思う。おそらくもっと多くのデータをもとに推計モデルを作れば、さらに精度が上がると思われる。
出産予定日を予測するのも重要だが、妊婦さんにとってもっと重要なのが早産リスクを予測することで、この研究もこれを主目的としている。これは、成長に伴う正常出産日を予測することとは質的に異なる。この研究では、まず早産研究に関するコホート研究に参加した妊婦さんで、実際早産してしまった8人、満期で出産した7人の血液中に流れているRNAの配列を調べ、両者で差のある38種類のRNAを特定している。 この中で最も差が大きかった7種類のRNAをマーカーにして、子宮が早期に収縮するなどの早産リスクが高いお母さんについて、実際に早産を予測できるか調べ、なんと80%の予測率があることを明らかにしている。
組織から血中に流れる核酸を用いて、ガンの大きさをモニターしたり、あるいは胎児の遺伝子診断を行う試みが続いているが、当然胎児の成長状況や早産リスクを調べるかなり信頼できる方法になる事は、言われてみれば納得する。ここでは比較的単純な推計学モデルを用いているが、インプットとアウトプットは明確に定義できるので、今後AIを用いたもっと診断率が高い方法に発展すること間違いない。