もちろんFDAが認可する根拠になったワクチンの効果を示す治験研究は存在するが、接種対象が15-26歳と、現在の思春期前に行われる接種とは時期がおおきくずれているため、現在普通に行われる接種方法については、新たな検証が必要だった。
今日紹介するコペンハーゲン大学公衆衛生学教室からの論文は、デンマークでHPVワクチン接種が行われる前の女性と、行われるようになった後の女性を比べることで、ワクチンのがんの予防効果を調べようとした観察研究だ。タイトルは「 Impact of HPV vaccination on outcome of cervical cytology screening in Denmark- A gegister based cohort study.(HPVワクチンのデンマークでの子宮頸部組織スクリーニング検査への効果)」だ。
公衆衛生の先進国デンマークでは、女性が20-23歳になると細胞診を行なって子宮頸がんの前段階の異型細胞の発生を早期に発見して子宮ガンを防ぐ努力が行われている。またデンマークでは2006年HPVワクチンが認可されてすぐから、無料で4系統のHPVが混合されたワクチン接種を提供され、7割の女性が15歳までに接種を受けている。
この研究では、20−23才時に子宮頸がんリスクを診断するために行われる細胞検査の結果を、1983年に生まれ、ワクチン接種を受けていない女性19461人、1993年生まれで92%がワクチン接種を受けている女性25478人で比べ、HPVワクチンが異形細胞の出現を抑えることができるか調べている。
我が国の現状を把握していないが、デンマークの女性のセックス初体験は16歳で、この研究の対象になった女性も15歳以前に性交渉を持った経験のある女性は37%に達している。この実情を踏まえて性交渉を持つより先にワクチン接種を行うため、15歳以前に2回目の接種が終わるよう計画しているようだ。
子宮頸がんはウイルス感染が継続している細胞が、まず前癌状態と言える異形細胞に変化することから始まる。この異形成状態は軽度異形(LSIL)と高度異形(HSIL)に分けることができる。ワクチン接種の有無で、それぞれのタイプの発生を比べると、軽度の異形細胞はワクチン接種にかかわらず4%程度で、特に変わりはない。ところが、高度異型細胞の出現は、ワクチン非接種群では1.8%に対し、ワクチン接種群は1.1%とはっきりとした効果が見られている。他にも様々な補正を加えて、有意の差があるかを確かめているが、高度異形細胞の出現が抑えられることは間違いないと結論している。
さらに数は少ないが、ワクチン接種が15歳以降に遅れた815人についても比べて、遅れたグループでは接種しないグループと差がないことを示している。これは年齢ではなく、性経験が始まるより前にワクチン接種を行う必要性を示しており、思春期の女性の性行動について正確に把握した上でワクチン接種計画を立てることの重要性を示した。予想されたとはいえ重要なデータだと思う。
今後同じグループは、さらに追跡され、子宮頚がんの発生頻度も20年後には発表されるだろう。ただ、今回の研究を含め、実際にワクチン接種がウイルス感染を防ぎ、異常細胞の出現を抑えるというデータは蓄積されつつある。これまで我が国では効果そのものも疑う議論が展開されていた。しかしそろそろ、効果については間違いなくあることを前提に、議論がでできる条件が整ったと言える。