そんな論文の一つが今日紹介するコーネル大学からの論文で、体の中に存在するT細胞は、それが胸腺で作られた時期によって、反応性が違う事を示した研究だ。タイトルは「Developmental origin governs CD8+ T cell fate decisions during infection(感染に対するCD8+T細胞の運命決定は発生起源により支配される)」で、6月28日号のCellに掲載された。
タイトルからもわかるように、この研究はCD8+T細胞の誕生時期によって感染に対する反応性が違うことを示そうとしている。これは私にとっては考えもしなかった新鮮なアイデアだが、イントロダクションを読んでみると、この着想は急に出てきた荒唐無稽な妄想ではなく、これまでの研究で徐々に醸成されていた考え方のようだ。
着想があれば、それを確かめる方法はいくらでもある。この研究ではCD4/CD8両方の分子を発現している未熟T細胞が胸腺で作られるときに、CD4を発現する細胞を標識し、そこから由来したCD8+細胞だけを追跡するという戦略で、生後1日目、生後7日目、あるいは生後28日目に胸腺で作られたばかりのCD8+細胞を追跡している。
まず表面マーカーの発現から、生後すぐに造られたT細胞の多くが、抗原刺激なしに(これについては最終照明はないが)メモリー型の細胞へと分化していること、そして発現している分子も成熟型の細胞に近く、抗原とは無関係に分化が進んでいることを発見する。
そして、標識細胞を移植して比べる実験などから、機能的にも感染に対して迅速で強い反応を示すことも示している。また、感染抗原だけでなく、炎症刺激や自然免疫を刺激するサイトカインにも強い反応性を示す。
以上の結果から、生後すぐに作られたT細胞は、自然免疫系と同じメカニズムを共有するおかげで、メモリーやエフェクターへ抗原とは無関係に分化することができ、抗原に対して迅速に反応する最初の第一線として働き、その後成長してから形成されたT細胞サブセットが抗原に反応できるまでの間のブランクを埋める働きがあると考えている。
あとは、この遺伝子変化の違いは、染色体構造の変化により決められていることをAtack-seqを用いて示しているが、紹介はいいだろう。
この研究は着想が全てで、用いられる実験方法などは特に新しいものではない。しかし、もしこの結果が正しいとすると、これまで全ての末梢に存在する、抗原に触れていないT細胞は同じとして研究している前提が崩れ、多様なT 細胞の存在を前提とした免疫反応のシナリオを構成し直す必要があることになる。