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7月7日:アスピリンがアルツハイマー病に効くメカニズム(Journal of Neuroscience掲載論文)

2018年7月7日
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薬剤を開発する場合、できるだけ分子標的を絞り、他の分子への作用が無いような化合物を選ぼうとする。これは副作用を懸念するからだ。しかし、副作用は読んで字のごとく、意図しない作用があるということで、悪い作用と決まったわけではない。思いもかけない良い作用が見つかることもある。特に、医療で利用されるようになってからの歴史が長い薬剤に思いもかけない良い副作用が発見されることが多い。この代表が、アスピリン、スタチン、メトフォルミンで、これまで知られなかった効果の発見に関する論文が現在も発表され続けている。

このような副作用は、同じ薬剤が異なる標的分子に作用する場合と、一つの標的分子が様々な現象で機能している場合に分かれる。アスピリンについては、シクロオキシゲナーゼを阻害して炎症物質プロスタグランジンの生産を止め、炎症を抑えることがわかっており、アスピリンの多様な効果は全てこの抗炎症作用に基づいていると考えられていた。これまでに報告されたアスピリンの効果だが、最も普通に使われる発熱鎮痛剤としてだけでなく、現在では血栓防止、動脈硬化防止と心臓血管病予防、一部のガンの予防効果も大規模調査で確かめられている。これに加えて最近では、パーキンソン病やアルツハイマー病など脳の変性疾患にも効果があるという臨床研究が出始めている。ただ、ほとんどの場合、背景に炎症が存在する場合が多く、結局はアスピリンの抗炎症作用が効果のメカニズムだろうと(少なくとも私は)考えていた。

ところが今日紹介するシカゴのラッシュ医科大学からの論文はアスピリンがPPARαという転写因子に働いてリソゾームの作用を高めアルツハイマー病を予防するというアスピリンの新しい作用メカニズムを示唆する研究でJournal of Neuroscienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Aspirin induces Lysosomal biogenesis and attenuates Amyloid plaque pathology in a mouse model of Alzheimer’s disease via PPARα(アスピリンはPPARαを介してリソゾームの生成を誘導し、マウスのアルツハイマー病モデルでアミロイドプラークを減少させる)だ。

これまでアスピリンがアルツハイマー病に効果があるという疫学調査が発表されており、この研究ではこの効果がアミロイドプラークを処理するリソゾームの能力が高まるためではないかと最初から仮説を立てて研究している。

まずアストロサイトをマウス脳から分離して、アスピリンがリソゾームの合成を誘導するのではないかと調べ、期待通りリソゾームの数が5倍以上に上昇し、この合成に関わる分子が軒並み高まっていることを発見する。すなわち、組織の炎症を経ないで、直接アスピリンがアストロサイトのリソゾームの合成をあげ、細胞の老廃物処理能力が高まっていることを明らかにする。

リソゾーム合成経路はよくわかっており、合成が高まっていることが確認できれば、あとはリソゾーム合成に関わる分子をたどればいい。最終的にPPARαと呼ばれる内因性の脂肪酸と反応してリソゾーム合成を高めるマスター遺伝子TFEBの発現を高め、結果としてリソゾームの合成が高まることを明らかにしている。この研究ではアスピリンがPPARαに直接結合して作用している可能性を強く示唆しているが、構造学的な最終証明には今後の研究が必要だと思う。もしこれが正しければ、アスピリンが動脈硬化予防に役立つ機構に、炎症予防だけでなく、この経路が関与している可能性がある。

アスピリンがPPARαを介してリソゾーム合成を高めることがわかったので、最後にアミロイドプラークの除去にもこの機構が関わっていないか、アミロイドが蓄積するマウスモデルを用いて調べている。結論は、アスピリンはアミロイドプラークが細胞内で合成しにくくするとともに、細胞外のアミロイドプラークを除去する能力を高め、アルツハイマー病モデルマウスのプラーク形成をPPARα依存的に抑えることを明らかにしている。

まとめると、シクロオキシゲネーストとは違う標的を介して、アスピリンはアミロイドプラーク形成を抑え、またその除去能力をたかめ、アルツハイマー病を予防するという結果だ。しかし、このメカニズムが正しいと、ほかの神経変性性疾患にも当然効果があると思う。一方で、オートファジーが高まると、一部の癌には良くない効果も予想される。このスパッと話をまとめられない点こそが、アスピリンが万能薬として使える理由かもしれない。私自身は、神戸に移ってからは低容量アスピリンをずっと服用している。

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