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7月8日:声を出して話をする脳のメカニズム(6月28日号Cell掲載論文)

2018年7月8日
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人類は、利他的な協調行動が可能で、経験を積極的に教えることのできるコミュニケーション能力を獲得できたことで、他の動物とは全く異なる進化が可能になった。この能力を私は言語と呼んでいいと思っているが、とはいえその能力が複雑な音節を用いる「話し言葉」になったのは、おそらく4−5万年前のことだろう。この過程を理解するためには、もちろん私たちが喉頭から口腔をどのように制御して複雑な音節を発音できるのかを知る必要がある。しかし、これは人間特有の機能であるため、研究は簡単ではない。これまで、脳外科手術時の刺激実験により、喉頭を支配する脳領域が人間でも特定されているが、複雑な音の変化をどう作り出しているのかまでは調べることができていない。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、てんかん発作の始まる場所を知るために人間の脳内に設置した電極を用いて脳の活動を直接高い精度で記録する方法を用いてこの難題に挑戦した研究で6月28日号のCellに掲載された。タイトルは「The Control of Vocal Pitch in Human Laryngeal Motor Cortex(人間の喉頭運動皮質での声のピッチの制御)」だ。

この論文の著者全員は脳外科学部門に属しており、この部門の特権を最大限に生かした研究と言える。研究では、喉頭運動皮質(LMC)をカバーして電極を長期間設置した患者さんに、決められた言葉(この実験ではI never said she stole my money.)を話してもらい、この時の声と喉頭部位の筋肉の活動、そしてLMCとその周りの領域の神経活動を同時に記録し、特に言葉のピッチが変化した時(例えば先の文章でSheを強調してもらって「彼女が犯人とは言っていない」というニュアンスを出してもらう)、LMCに設置した各電極の活動と相関させる実験を12人の患者さんについて行なっている。脳内に設置された電極のおかげで顔や喉頭の動きの影響は全く受けず、また電極の密度が高いため、脳の小さな領域の活動を同時に数多く記録できる。

この実験でまず、ピッチを変える時に興奮する領域がLMCの背側(dLMC)に限局していることを発見する。これは左右の脳で同じだが、左脳では腹側(vLMC)で記録されることもある。重要なのは、興奮が強いほどピッチの高さが上がる点で、脳の活動が直接ピッチをコントロールできる構造になっているのがわかる。さらに面白いのは、発生したピッチの変化を耳を通して感知するのも同じ領域で、平均0.39秒後に同じ場所が興奮する。即ち感覚と運動の両方が同じ領域で支配されている。

次に音声学者の藤崎先生らによるモデルを用いてピッチの輪郭を速いアクセント部分と、遅いフレーズ部分、そしてこれらを音としてあわせる要素に分解し、それぞれに対応するLMC領域を調べると、アクセント部分とフレーズ部分は異なる領域で支配されていることが明らかになった。

次に、この結果が、言葉を話すときに限られるのかを調べるため、今度はメロディーをつけて歌う課題を設定して測定を行うと、同じように発声前とそれを聞く過程で同じ領域が興奮し、話し言葉に限らず、歌を歌うときにも同じ脳の活動が見られることが明らかになった。

これだけでも十分面白いのだが、この研究ではなんと留置電極を用いた実験から明らかになった領域を、脳外科手術時に刺激する実験を82人について行い、全身麻酔の場合、dLMCへの刺激の強さに応じた強さの喉頭筋肉の活動が誘導できること、また局所麻酔による手術時の実験で、dLMCを刺激した時だけ、実際の声を出させることまで示している。

もちろん、言葉を話すという複雑な運動調節を理解するにはまだまだ研究が必要だろうが、それでも大きな進歩だと思う。この成功は何と言っても電極密度の高い記録を行える患者さんのおかげだが、これに我が国の藤崎先生の言語の数理モデルが大きく貢献していたことも嬉しい話だ。

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